1.小売業の類型

第6問

本問題は、小売業の国際化についての問題です。近年、わが国でもコンビニエンスストア、総合品ぞろえスーパーなどの小売企業が、国内市場の縮小化の背景から諸外国へ本格的に参入・展開を始めています。本問題では、小売業が国際化する要因として、プル要因とプッシュ要因に大別できますが、ここではプル要因の諸側面について問うた問題です。今後、大企業だけでなく中小規模の小売業の国際展開も考えられ、国際化は重要な経営課題になるといえるでしょう。
解答においては、プル要因を記述するところにプッシュ要因を記述するものが目立ったほか、誤字も多数見受けられました。

第7問

本問題はアメリカにおけるスーパーセンターについての立地面、商品面および価格面についての特徴、すなわち経営原則についての問題です。スーパーセンターは大規模なスーパーマーケットとディスカウントストアが結合した、比較的新しいタイプの小売の営業形態であるといわれています。
消費者のニーズや競争状況が変化する中で、新しい小売営業形態を開発することは経営上の大きな課題でもあります。
解答においては、特徴を示すキーワードが十分に示されておらず、かつ不十分なものが目立ったので、各営業形態の経営原則を今一度確認していただきたいと思います。

2.マーチャンダイジング

マーチャンダイジング科目の学習にあたっては、マーチャンダイジングサイクルにもとづく、一つひとつの業務内容をサイクルの手順と関連づけて理解することが大切です。
今回の試験問題では、そのサイクルの中の重要ポイントである「販売計画の実務」からは“季節指数の求め方”を、そして「仕入計画と在庫管理の実務」からは“商品在庫管理の計算問題”を問うています。
第6問は、季節指数を求める3つの方法のうち、「月別平均法」に絞って出題しています。季節変動に伴う季節指数の求め方の種類と特徴をよく理解しておく必要があります。
一方、第7問の計算問題は、いわゆるGMROI(商品投下資本粗利益率)モデルで、最終的な売価基準を求めるまでの計算プロセスを十分に理解していないと正答には至らない問題です。したがって、数多くのケーススタディによる演習をこなしたうえで試験に臨む必要があります。

第6問

月別平均法の正答率は、総じて高い結果となりましたが、(1)と(2)の両問題を記述できた受験者は少なかったです。すなわち、(1)「月別平均法とは何か」の問題において、「過去3~5年の月別売上高を集計する・・・」という基本的条件を記述せず、ただ単に、「月別に平均値を求める」などのような解答が多く見受けられました。
一方、月別平均法は(2)「どのようなときに使うのが適切か」の問題に関しては、ほとんど不正解の状態であり、月別平均法の意図を十分に学習していないことが推察できます。特に、「年々の季節変動パターンが概ね似ており、しかも不規則変動が少ないときに使う」というハンドブックの主旨を理解できていません。ただ単に、最寄品の発注に使う、ファッション商品の仕入に使うなど、商品や業務の内容に関する記述では、正答として扱えません。
季節変動と月間販売計画の立て方に関しては、小売業が適切な販売計画を立案するうえで大変重要な業務です。その中で、キーポイントとなる“季節指数の求め方”を販売計画や予算管理という面から学習することが課題と言えるでしょう。

第7問

売上総利益を求める計算(1)については、計算式が簡単であることから比較的高い正答率でした。しかし、計算プロセスの最終段階に位置づけられる(2)「平均在庫投資額(売価ベース)の計算」については、半数以上の受験者が正答できていませんでした。
また、各受験者の計算プロセスを見ていくと、GMROIの計算式を用いて平均在庫投資額(原価)を求める段階に至った受験者は概ね3分の1でした。つまり、それにもとづき、平均在庫投資額を売価へと修正する計算に至らない受験者が実に多かったということです。全体としては、利益計算の演習量が不足していたと思われます。
小売業経営において重要なマージン管理と商品在庫投資管理の2つを組み合わせた商品投下資本粗利益率の意味と計算式をよく理解し、何度も繰り返して演習することが課題と言えるでしょう。

3.ストアオペレーション

第6問

近年では顧客の購買目的が「何を買うか」という商品そのものにあるのではなく、「どのような生活シーンを楽しみたいか」というライフスタイル局面や、「どのような満足感を得たいと考えているか」といった心理的局面へと変化してきています。

したがって、小売業はただ単に商品を従来からの品種別にディスプレイしたり、販売管理したりするのではなく、用途や効能、さらには欲求の目的などの面から品種を細分化し、サブカテゴリーに新たな役割や機能を設定することが重要となっています。
本問の(1)は、そのような背景を踏まえ、サブカテゴリーの役割が強く重視されている食品業界に焦点を合わせて記述しなければなりません。食品業界では、品種ごとに類似した品目が数多く開発され、常に改廃されているため、品種を戦略的視点からさらに細かく分類し、顧客に対して選びやすく、買いやすい売場を提供するとともに、小売業においては品種ごとの売れ行き動向がより詳細に把握できるように商品管理していく必要があります。
(1)では、「食品業界の状況」や「サブカテゴリーを設定しない場合の問題点」といった基本的条件を記述できていない受験者が多かったです。ただ単に、「多様化」、「ニーズに対応」などの抽象的な表現や「分類の説明」で字数を稼ぐ解答が目立ちました。また、一般的なサブカテゴリーの説明にとどまり、必要性まで言及していない解答も多かったです。さらに、“必要性”を問いているのにメリットと混同したり、クロスマーチャンダイジングやディスプレイの手法を記述している解答が目につきました。
一方、(2)では、半数近くが不正解の状態でした。「各段階の商品細分化の体系や実例を十分に理解していない」と思われます。
本来、商品の細分化は、「クラス⇒サブクラス⇒アイテム⇒SKU」と段階的に落とし込んでいきますが、サブクラス欄には「乳製品」「冷蔵品」など、クラスよりも大きい分類の解答が、またアイテム欄にはSKUであるはずの「容量」の解答が目立ちました。その他、サブクラス欄とアイテム欄に類似品、もしくは同じ基準の商品名を記述する解答が多く見られました。また、ヨーグルトのクロスマーチャンダイジング例と勘違いして、「フルーツ」「シリアル」「ソース」などや、「食品以外」の解答例も見受けられました。

第7問

社員とパートタイマーの投入人時を求める計算(1)については、比較的高い正答率でした。しかし、計算ミスによって減点される解答の割合が高かったです。計算式欄に公式や単位、社員・パートタイマーの区別を記述しない受験者は、総じてミスも多い傾向にあります。単位を間違えたり、計算の途中で四捨五入したりするなどの初歩的な計算ミスや、社員とパートタイマーを逆に転記するミスが目立ちました。また、「人時」を「人事」と書くなど、基本的用語を理解していないものも見受けられました。
総体的に見て、社員とパートタイマーの必要人数を求める計算(2)の方が(1)よりも正当率が高めでした。ここでは、(1)で求めた人時生産性を使わず、売上高などから改めて計算する解答が見られ、公式を変形する応用面での理解度が足りないと感じられました。
また、計算式は正しいものの、最後の「小数点以下第1位を四捨五入」する段階でミスをしている答案が相当数ありました。
その他、計算式欄に筆算している答案が見受けられましたが、ここは公式やプロセスの式を記入する“解答欄”であるので、欄外で計算を行うか電卓を使用していただきたいものです。
これらの人時生産性関連の計算問題は、公式をきちんと理解すれば点数を取りやすい箇所であるので、演習を繰り返して確実に得点することを望みます。

4.マーケティング

第6問

第6問は、サービス・マーケティングについての設問です。サービス・マーケティングは、無形財であるサービス商品の提供を主な事業としているサービス事業者のマーケティングです。小売業は物販業ですが、今日の小売業は、単に有形財である商品を販売しているだけではなく、店頭における接客という顧客との接点を通じた販売員の対応のあり方が重要な課題となってきています。
今回は、「サービス・トライアングル」というサービス・マーケティングの3主体のかかわりについての出題です。3つの主体とは、企業、顧客、従業員です。まず、企業と顧客とのかかわりは、従来のマーケティングと同様のマーケティング活動を指し、「エクスターナル(外向き)・マーケティング」といいます。つぎに、企業と従業員のかかわりは、従業員満足の向上に資するような教育や動機付けなどの「インターナル(内向き)・マーケティング」です。そして、顧客と従業員のかかわりは、接客や情報提供などにおける両者のコミュニケーションによる「インタラクティブ(双方向)・マーケティング」です。
全体として、3主体のかかわりについて、しっかり把握できている受験生が多い反面、的はずれな解答も目立ちました。とりわけ、インタラクティブ・マーケティングについての理解があいまいな解答が多く見られました。接客現場におけるマーケティングでは、顧客と従業員との良好な相互関係が不可欠ですので、現場をマネジメントする視点からサービス・マーケティングの理解を深めておいてください。

第7問

第7問は、ストアコンパリゾンを実施する際に活用されるPFグラフ(チャート)分析の作成に関する設問です。PFグラフのPはプライスを指し、Fはフェイシングを指していますが、この前提条件を理解していないと解答できません。ストアコンパリゾンは競争店調査ですので、競争店の概要や物件の特性、インストアマーチャンダイジング、商品の価格や品質、接客などを調査し、自店と比較し、経営改善につなげていくものです。
今回、誤りが目立った点は、PFグラフの作成手順の第一段階に、競争店の調査項目を挙げた解答です。競争店調査ですので相手を調べることは重要な項目ですが、自店が新規出店するのではなく、同一商圏内で継続して行われている競争に打ち勝つための改善策を検討するものです。したがって、第一に行うことは自店(己)の商品、価格、フェイシングを分析しPF調査表に記入することです。次に競争店(敵)の同種商品の売価、フェイシングを調査し、PF調査票に記入します。
そして、客観的に比較できるように、価格ランク別フェイシング一覧表を作成し、グラフ化し、最後にそれを分析して問題点を発見します。PFチャートの目的は、自店の品ぞろえで問題になる点を発見し、改善に結びつけることですので、一連の流れを把握しておいてください。

5.販売・経営管理

第6問

連単倍率の計算式(①)と、計算結果から読み取れる企業集団の利益状態の評価(②~④)を問う出題です。
①については比較的正答率が高かったのですが、「親会社の利益÷企業集団全体の利益」と、分母と分子が逆さまの答案も散見されました。①でこのようなミスをすると、②~④の解答も真逆となり、第6問全体が不正解となることがあります。
販売・経営管理科目のハンドブックに記載されている財務・経営分析手法については、計算式を正確に覚えることは勿論のこと、計算結果から企業の状態を読み取ることが更に重要となりなます。その意味において、①に比べて②~④の正答率、とくに③の正答率が低かったことが残念です。
連単倍率は、子会社等と親会社の相対的な利益差に影響されるので、子会社等が大きな利益をあげていれば、親会社の利益が小さい場合でも高くなる傾向があります。それよりは、親会社も大きな利益をあげている状態で、連単倍率が高くなるほうが望ましいといえます。

第7問

人事考課の際に、評価者が陥りやすい心理的誤差傾向を問う出題で、①~④の正答率は高めでしたが、⑤近接誤差はやや低調でした。
⑤は、「評価者に近い存在(直属部下や座席が近いなど)の被考課者に対して、甘い評価になりやすい・・・」といった答案が目立ちましたが、近接誤差には大きく分けて3種類のエラーがあります。
一つは、考課票に類似した評価要素が隣り合うようなかたちで配列されている場合、各々の要素の評価結果も類似しやすくなります。例えば、‘営業力’、‘行動力’、‘積極性’といった要素が並んでいると、営業力のある人は行動力や積極性もあると評価されやすくなります。
二つ目は、考課時期の直近の出来事が印象に残って、評価期間全体の評価が正しくされないエラーで、『期末効果』ともいいます。例えば、期末に非常に高業績を残した人が、期中を通じてコンスタントな業績を残した人よりも良い印象に思えることがあります。
三つ目は、近接した時間内に実施した考課結果が類似することがあります。例えば、ある日にA~Cの3人の評価をしたときには甘目の評価だったが、1週間後にD~Fの3名を評価するときには辛目になるということがあります。
なお、①ハロー効果については、「何か1つ良い部分があると、他の部分も良く評価する・・・」といった答案が目立ちましたが、これはハロー効果のなかでもポジティブ・ハロー効果といいます。逆に、ネガティブ・ハロー効果といって「何か1つ悪い部分があると、他の部分も悪く評価する・・・」もあります。ハロー効果には、これら2つの効果があることも知っておいて欲しいところです。