原作:髙見啓一(鈴鹿大学講師)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。
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-リーンリーン!ここは悪の組織ZAIMが運営する「モンスター製造工場」。モンスター製造依頼の電話が次々と鳴るのであった。

戦闘員A 「はい、はい。スケルトンと暗黒騎士を10体ずつ追加ですね。了解しました。」
スケルトン 「自分、もうちょっと肩骨の部分を強化して欲しいでやんす。」
戦闘員B 「暗黒騎士の装備は・・・鉄の剣だっけ?そろそろ連敗止めろよな~。」
暗黒騎士 「自分はもっと威力のある、高価なアルミ製が欲しいっす。」
戦闘員C 「勇者たち、レベル上がってるもんな。どんどん強化しようぜ~!」
統領 「・・・・。」

-テレビショッピング後の30分間のような、ひっきりなしの注文電話がようやく鳴りやみ、一息つくZAIMの面々であった。

戦闘員B 「ふう・・・疲れたな。」
戦闘員A 「明日から工場がフル稼働だな。」
スライム 「お疲れさまです(ぷるぷる)。お茶どうぞ。」
統領 「・・・お前たちに見せたいものがある。ついて来い。」
戦闘員ABC 「?」

-(カツン・・・カツン・・・)統領は工場の地下室へ案内する。「工場長室」と書かれた部屋の中には、大きな宝箱が置いてあり、おもむろに箱を開ける統領であった。

統領 「(パカッ)これを見よ。」
戦闘員B 「なんすかこれ?」
戦闘員C 「金貨が入ってる。あんまり多くはないな。」
統領 「今月のモンスター生産はこの予算で賄わねばならぬのじゃ。」
戦闘員ABC 「ええ~!?これっぽっち?」

-モンスター製造工場の実状を知った戦闘員たちに、統領は説くのであった。

戦闘員A 「そもそも、モンスターって作るのにお金かかるんですね・・・。」
統領 「当たり前じゃ。武器を装備させるには武器屋から武器を買わねばならんしな。」
戦闘員B 「初めて知った。魔王軍も武器屋さんで武器を買っていたのか。」
戦闘員C 「確かに、正義の国に対してだけ武器を売ってるわけじゃないよな。武器屋は。」
統領 「それが世の中の常じゃ。世界紛争が無くならない理由が分かるじゃろ。」
戦闘員A 「思いがけず深い話ですね。」

-小難しい演説に熱が入る統領であった。

統領 「戦いに勝ち、経済を握り、その金で軍事力を高め、世界の覇権を握る。これこそ国際政治の常道なのじゃ!」
戦闘員A 「否定できません」
統領 「だからこそ、限られた軍事予算でモンスターの効率的な製造を図ることが、魔王軍の命運を握るといても過言ではない!」
戦闘員B 「さすが統領っすね。」
戦闘員C 「理屈だけは一丁前なんだよな。この人。」
説明しよう。統領を名乗るこの男は、中小企業診断士の資格を取得しており、経営学の知恵を悪の組織に取り入れようと必死であった。
統領 「コホン。勇者を倒すなどの成果を上げれば、その分我々にも予算が配分されることになっておる。」
戦闘員A 「安心しました。しかし・・・負け続けたら?」
統領 「我々の予算が尽き、モンスター軍団を派遣できなくなる。」
戦闘員B 「え?それって・・・」
統領 「そうなった場合、最後はお前たちに戦ってもらわねばならん。」
戦闘員C 「無理無理無理!暴力反対。」
戦闘員B 「俺たちのビジュアル、どう見たって、やられ役じゃないっすか。」
統領 「我々ZAIMの復権のために、何が何でもこの世界で戦績を上げねばならぬ。そこで『原価計算』の出番じゃ。」
説明しよう。原価計算とは企業内部で行われる活動であり、製造活動の記録のために、製品を製造するのにかかったお金を計算する手法である。
戦闘員A 「たとえば自動車だと、鉄鋼やタイヤなどにどのくらいかかったのかを計算するあれですね。」
統領 「うむ。モンスター製造工場も原価計算をしなければ、費用対効果が分からんからな。モンスター1体あたりの製造原価がいくらかかって、何人くらいの勇者を倒したのか、把握する必要があるじゃろう。」
戦闘員B 「たしかに、高いお金をかけてやられ続けるのは、ムダっすね。」
統領 「原価計算は製造業のみならず、原価が重要となる流通業や飲食業、各種ビジネスのムダ削減という視点からも使えるツールなのじゃ。」
戦闘員C 「おいおい、このコラムもムダな連載にならねぇだろうな・・・。」

次回予告

ついに「原価計算」の導入を図るZAIMモンスター製造工場。
原価計算の全体像が明らかに。効率的なモンスター製造は実現するのか?
次回「統領・原価計算に目覚める!」お楽しみに!