著者 : 鈴鹿大学講師 高見啓一

6,7月は簿記検定、販売士検定といった検定シーズンであり、大学で検定対策講師をしている検太郎にとっても、周りがざわつく季節だったりする。放課後、簿記2級の検定対策を教えた女子学生の優香さんが検太郎を訪ねてきた。

優香 「先生、私簿記検定落ちちゃいました・・・。」
検太郎  「そっかー・・・。」
優香 「ものすごく頑張ったんですけど、ポカミスがあって・・・。」
検太郎  「とりあえずはお疲れ様。また11月に検定試験あるから、次は合格しような!」
優香 「はい・・・でも先生は連戦連勝って感じですね。試験に落ちることなさそう。」
検太郎  「えー。そんなことないない。落ちることもあるよ。」
優香 「でも、いっぱい資格持っているじゃないですか。」
検太郎  「こないだも、ちょっと難しい国家試験にチャレンジしたんだけど落ちちゃってね。」
優香 「え?先生が落ちるなんて意外ですね。」
検太郎  「意外でもないよ。人よりもたくさん受けるようにしているから、連戦連勝しているように見えるだけさ。だから、次はまた違う試験にチャレンジしようと思ってね。」
優香 「うわ!ポジティブだなあ。チャレンジの数が大事なんですね。」
検太郎  「そうそう。ちなみに俺でも簿記検定の2級は2回落ちてるよ。」
優香  「そうなんですね。なんだか安心しました。」
検太郎  「うまくいかなかったときは、「二の手、三の手」を考えることが重要なんだ。受け続けてればいつか受かるよ。」
優香 「そうなんですか・・・。でもまた2級の勉強を最初からやるのもなんだか気が進みません。」
検太郎  「そういう気分になることもあるよな。たとえば、『視野を広げる』って手もある。俺の場合は簿記の1級を受けた後だったな。全然手ごたえがなくて「落ちた」って思ったから、合格発表前にもう別の試験勉強を始めていた。それがいま中小企業診断士や税理士試験に合格したきっかけさ。簿記は色々な国家試験と関連するからね。」
優香 「わかりました!簿記以外にも販売士とかビジネス英語とか、気になる検定試験があったので、どんどん受けてみたいと思います。」
検太郎  「そうだな。優香の場合は検定試験の勉強を通じてビジネスに役立つ知識を得ることだったからな。そのあたりの資格はきっと役に立つと思うよ。」

【一週間後】

優香 「先生、さっそく販売士検定のテキストを買ってみました。マーチャンダイジングの粗利益の話とか販売・経営管理で出てくる損益計算書の話とか、簿記でやった内容とかぶっていたので驚きました。」
検太郎  「そうそう。あれ、簿記やっていない子にはちょっとした難関だからね。」
優香 「簿記の勉強しているときは、ぜんぜん実務と結びつかなかったんですが、販売士の勉強をしていたら、こうやって利益計画を立ててお店や会社を運営するんだなって気づけました。簿記の知識がどう役立っているのかが分かりました。」
検太郎  「ね。視野が広がったろ?」
優香 「はい。簿記2級には落ちたけど、勉強は無駄じゃなかったと思いました。」
検太郎  「こんど販売士の勉強が落ち着いたら、もう一度簿記の勉強に戻ってごらん。きっと同じような発見があるから。」
優香 「検太郎先生、ポジティブな『考え方』してるなあって思ってたけど、それが一番効率的な『試験対策』だったんですね。」
検太郎  「失敗はムダにはならないよ。試験に限らず人生いろいろさ。どんなにつらいことがあっても、後日の成功の糧になるって思えば楽になるよ。」
優香 「先生の人生も過去に色々ありそうですね・・・。深いなあ・・・。」
検太郎  「AがダメならB、BがダメならC・・・っていう風に、常に二の手三の手を考えるのが大事だ。人生の選択肢がゼロになることは絶対にないから。」
優香 「なんだか気持ちが楽になりました。悟りの境地ですね。就職活動とかも不安でしたけど、第一希望が通らなくても、二の手、三の手を考え続けたいって思います。」
検太郎  「そうそう。期待していた飲み屋が満席だったり、ラストオーダーだったりするんだよ。ここでムッとしていたら、2軒目3軒目を探して入っても美味しく酒が飲めないんだよな。だから、満席と出くわしたら、『今日はきっと2軒目にいい酒と肴が待っている』って思うようにしたんだ。それがこのポジティブシンキングの由来さ。」
優香 「飲み屋の話だったのか~。全然深くない!」