著者 : 鈴鹿大学講師 高見啓一

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今日は検太郎が財務面の顧問を務める食品加工会社に来ている。特に食肉加工の技術に定評のある会社である。この会社では社員の簿記2級検定取得を推進しており、検太郎もコンサルティングの傍ら、社員の簿記検定対策研修を実施しているのである。
研修終了後、開発部の松山くんと、経理係の高田さんが、検太郎を交えて会話をしていた。内容は模擬試験の成績についてだ。

松山 「高田さんはいいよな。経理をやってるし、3級も早い時期から勉強したことがあるらしいし、得点の差はデカイよ・・・。模試80点だっけ?合格レベルじゃん。ちなみに俺は30点。」
高田 「大丈夫だよ。私も最初は30点とか40点からのスタートだったし、慣れればすぐに点数伸びるから。」
松山 「いやいや~。やっぱ早い時期からやっているべテランには勝てないって。高田さんは経理も日々やってるし、俺は簿記検定対策で初めて経理の世界を知ったくらいだから。」
検太郎 「たしかにね。3級のときからの経験を入れたら、高田さんは1年以上勉強していることになるね。」
松山 「でしょ?私は初心者だし、まだ簿記に触れて3ヶ月ですよ。思いっきり不利ですよねこれって。高田さんは頭の作りが違いますよ~。」
高田 「それはないない。でもやっぱり、時間の差は仕方ないよね。」
松山 「・・・う~・・・。」
検太郎 「まあまあ。ちょっと気分転換しようか。松山くんは開発部にいるし、開発の話でもしよう。この会社で長年作っている経験豊富なジャンルの商品と、全くやったことのない商品、どちらの方が開発は難しいと思う?」
高田 「え?そりゃ全くやったことのない商品でしょ?うちだったら食肉加工はノウハウがいっぱいあるけど、それ以外の製品開発ってなると難しそう・・・。」
検太郎 「普通そう思いますよね。松山くんどうですか?」
松山 「高田さんは甘いな(フフ)。もし俺がその立場だと、先輩たちが長年にわたって作ってきた加工方法を超えるものを考えなきゃいけないんだよ。プレッシャー半端ないです。今は若手代表ってことで、全くの新商品をやらせてもらっているので、気が楽ですよ。」
高田 「そっか!そういう考えもあるか。」
検太郎  「俺は『伸びしろ』って言葉が好きなんだ。」
松山 「伸びしろ?」
高田 「『成長する余地』のことですよね。。」
検太郎 「そうそう。経営学の世界では、企業が一度イノベーションを達成してしまうと、さらなるイノベーションは起こしにくいって言われているんだ。その理由には様々な説があるけど、俺は伸びしろが原因の一つだと思っている。」
高田 「たしかにうちの会社、食肉加工では業界最高水準って言われちゃってるし、これ以上の加工方法を考えろって言われたらしんどいかもね。」
検太郎 「伸びしろがないとしんどいのは、検定の指導も同じ。80点の子を90点、100点にするのはとっても難しいんだよ。30点の子を70点まで引き上げる方がどんだけ簡単か。松山くんの指導は簡単(笑)」
松山 「あ~、たしかにそうかもしれませんね!俺、基本的なことから分かってないから。」
高田 「そうそう。私の見てよ。検太郎先生から指示された上級テキスト、めっちゃ難しいんだから。」
検太郎 「仕事も検定も、分からないことを悩むことはないよ。むしろミドルに考えて、『自分は伸びしろが大きいんだ』『ベテランよりも伸ばしやすいんだ』って考えれば気が楽でしょ?」
高田 「伸びしろ・・・なんかいい言葉ですね。私もそれ、大切にしようかな。」
検太郎 「そうそう。高田さんみたいにできる人も、改めて気にすべきです。伸びる部分と伸びない部分が明確に分かるから。高田さんは・・・たしか決算の取引が、まだまだ伸びしろありそうだね。3級レベルの問題を落としてたし。」
高田 「あ、それ私の苦手なところです。先生よく見てますね~。」
検太郎 「まぁ、職業柄、人や会社のダメなところはよく目につくんだ。」
松山 「いやな性格~。」
検太郎 「伸びしろを探してやっているってことだよ(笑)」
松山 「じゃあ先生、伸びしろだらけの俺は何をやったらいいですか?」
検太郎 「簡単な問題からやりなさい。難しい問題は即スルー。」
松山 「え?それでいいんですか?」
検太郎 「その話はまた次回するとしようか。」