著者 : 鈴鹿大学講師 高見啓一

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今日も検太郎は、女子大学の講義に来ている。日本商工会議所でリニューアルされた「リテール・マーケティング(販売士)検定」の対策講座である。講義が終わり、いつも前の方の席で講義を聞いている2人組である夏子と真由が話しかけてくる。検定対策のご質問とご相談のようだ。

夏子 「先生~(泣)」
検太郎 「どうしたの?面白い顔して。」
夏子 「面白い顔って・・・ちょっと!真剣なんですから。私「暗記」が苦手なんです。検定試験が近いっていうのに、私どうしても記憶ができなくて。」
真由 「あ、わかる~。私も暗記きらーい。」
夏子 「特に統計関係。小売業の全事業所数とか店舗面積合計とか、覚え方を先生が言ってくれてても、なかなか定着しなくって。」
真由 「ボランタリーチェーン、フランチャイズチェーンの加盟割合とかもね。意味わからないも~ん。」
検太郎 「あーね。みんなそれ言うよな。教えている立場から言うと、暗記はつべこべ言わず覚えちゃえばいいだけなんだけどね。」
夏子 「先生と違って、私「記憶力」がないんで無理です。」
検太郎 「う~ん・・・計算とか法律のケース問題みたいに、ロジックの理解が必要なものの方がよっぽど難しいんだけどな。特に文系の人間にとっては。」
夏子 「 毎日ちゃんと先生の授業を、最前列で寝ないで聞いているんですけどね。どうも頭に残らなくて・・・。」
真由 「夏子、いつも先生のところに質問に行ってるもんね。先生と仲良くなりたいからだったりして。」
夏子 「何言ってるの真由。そ、そんなこと(照)いや、でも真剣なんです私。もちろん試験対策の話ですよ(笑)。先生聞きやすいから、毎回分からないところ、教えてもらえるんで本当に助かってます。」
検太郎  「『真剣』か・・・。逆に、俺がめっちゃ質問しづらい講師だったらどうかな?そういう先生も大学にはいるだろ?」
真由 「いるいる。私そういう先生キライ」
夏子 「私そういう先生キライ。」
検太郎 「でも、そういう授業でも、質問せずにちゃんと単位取れてるだろ。」
真由 「確かに・・・。」
夏子 「そういう授業は、後で聞けないと思うし、教えてくれないと思ってるから、授業で聞き逃すまい・・・と思って聞いてますね。」
真由 「わたしは授業で分からなかったらネットですぐに調べちゃう。」
検太郎 「あーね。そういえば昔の人は辞書を食べたって話って知っているかい?」
夏子 「え?何それ(笑)」
検太郎 「昔のがむしゃらな勉強家は辞書を読んで、覚えたページはもう見ないと決めて、食べたなんて話があってね。」
真由 「えー。おなか壊すよ~(笑)」
検太郎 「食べちゃうってのは大げさだけど、「もう読めない」という覚悟で読んでいるんだと思うな。ほら、映画や漫画に出てくる腕利きのスパイや殺し屋なんかも、書類は情報流出防止のために、全部覚えて燃やしてしまう・・・なんてシーンがあるしね。」
夏子 「すごいね・・・。」
検太郎 「俺『根性論』はあまり好きじゃないけど、そういう姿勢自体はすごいなって思う。やっぱり人間どこかで「いつでも聞けるから大丈夫」「ネットで見れば大丈夫」って思っちゃうと、定着しないんだよね。勉強も記憶も。」
真由 「あ・・・そうかも。」
夏子
私先生にいつでも聞けるから大丈夫と思って授業聞いてるかも・・・。
真由 もー。全然真剣に聞いてない。検太郎 どうせ何回も同じ相談してくるだろう・・・と思って聞いてるわ(ハハハ)夏子・真由 先生きらーい(笑)」
検太郎 「『記憶力』じゃなくって、きっと『気持ち』が大事なんだろうね。『もう聞けない』『もう改めて見ることができない』っていうそんな気持ち。たとえば面接試験のように、もう二度と会えないかもしれない相手の話は、真剣に聞くだろ?」
夏子 「たしかに・・・。」
検太郎 「1回1回の授業を真剣に受けているかどうか。これは目には見えにくいけど、きっと二人なら大丈夫だよ。がんばり屋なこと、知っているし。記憶は気持ちについてくるさ。」
夏子 「先生・・・(キュン)」
真由  「 ねえねえ。ところで先生、話変わるけど前に相談してた彼氏の話なんですけど。」
検太郎 「え?真由、彼氏いたんだっけ?えっとなんの話だっけ?」
真由 「もー。全然真剣に聞いてない。」
検太郎 「どうせ何回も同じ相談してくるだろう・・・と思って聞いてるわ(ハハハ)」
夏子真由 「先生きらーい(笑)」