ITはあくまで手段、ITを使って何を創り出すかが重要

メディアリテラシーが必要

-最近、若年層の社会人基礎力が低下していると言われていますが、今どきの学生をはじめとする若年者に必要なスキルとは何でしょうか。

昔は「読み書きそろばん」と言われましたが、現在ではこれに、WordやExcelなどが使えることが必要と言われています。しかし、もっと大切なのは、新聞を読む、読書をする、手紙を書くといったことではないでしょうか。つまり、「読み書きそろばん」に加えて「メディアリテラシー」が必要ではないかと思います。

「メディアリテラシー」を言い換えれば、「電話をかける」「テレビを見る」「電子メールを書く」「インターネットで調べ物をする」といったことでしょうか。要するに、情報を集め、評価・識別をし、活用する能力が必要だと思います。

重要なのはITを使って何をするか

-学生のパソコン操作力をはじめとするITスキルが低下しているとの報道や調査結果を目にしますが、どのようなITスキルが必要なのでしょうか。

ITはあくまで手段であり、重要なことはITの使い方ではなく、それを使って何をするか、何を創り出すかということです。

インターネットを使って情報を収集する、電子メールを使ってコミュニケーションをとる、WindowsであればOfficeのWordやExcelを使って、完成度の高い文書やデータなどを作ることができる、こうしたスキルを高めなければならないということです。

教える側も、ソフトのコマンドを教えるよりも、まず作業をする目的と完成物(成果物)を示し、作業プロセスの中での、手段としてのITを教えるということが必要です。IT教育とは、このような視点を持ちつつ、常に最新のことを教えることだと思います。

IT活用の真髄

-ITを活用するとはどういうことなのでしょうか。

今どきの学生は、ほとんどがスマートフォンを持っていますよね。そういえば、私が勤める大学の大学院middle生で、スマートフォンで卒業論文の原稿を作成した学生がいたのには驚かされましたが、、、

LINEやtwitterを使った短いメッセージ中心のコミュニケーションをしているせいか、短くてすぐに伝達され、消費される情報の取扱いはとても得意です。しかし、手紙や電子メールで人に何かをお願いしたり、何年も使われるような長くて完成度の高い文書を作成することは不得意です。

こうした文書を作成できるようにすることが重要であり、また、教育する側もこの点を意識する必要があると思います。ショートメッセージではなくロングメッセージでやりとりをすることが真の意味でITを活用するということではないかと思います。決して、スマートフォンを使いこなすことがITの活用ではありません。

企業が求める人材を目指す

-企業はどのような人材を求めているのでしょうか。

専門性、人間性、国際性の3つを持ち合わせた人材だと思います。
「専門性」とは他人に負けない専門的な知識やスキルを身につけていること、「人間性」とは他人とコミュニケーションをとりつつ仕事ができること、そして「国際性」とは英語ができるということではなく、世界中の人々の考え方、習慣、文化は千差万別ですが、こうした現実を認識し、受け入れ、一緒に仕事ができることです。これが「国際性」の本質だと思います。

日頃、大学でも学生に言っていますが、これらを兼ね備えた、企業側からきてほしいと思ってもらえるような人材を目指すことが大学では重要ではないでしょうか。

他者の一歩先を行く仕事力を身につける

-最後に学生や求職者などこれから就職を目指すみなさんと、ビジネスパーソンのみなさんに、メッセージをお願いします。

冒頭、「読み書きそろばん」と「メディアリテラシー」が必要と申しあげましたが、一日24時間の中で仕事をどのように進めるかを考える「仕事をマネジメントする力」も必要だと思います。これが身につけば、仕事を通じて自らが創り出した付加価値(成果)をしっかりと上司に説明できるようになります。

また、大学の授業で学生を見ていると、人間にはすべてを文章でメモする「文章脳」タイプの人と、箇条書きにまとめて図で書く「図解脳」タイプの人がいます。各自に合ったプレゼンテーションの仕方、知識のパッケージの仕方を身につけることも必要だと思います。

あとは、「情報の土地勘」を身につけるということではないでしょうか。インターネット上に氾濫している情報の中から、自分が求める情報やデータがどこにあることが多いのかということを常々把握しておく勘所を身につけるとよいと思います。

Profile

西 和彦 Nishi Kazuhiko
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部在学中の1977年に株式会社アスキー出版(現 株式会社アスキー)を設立。1979年米国マイクロソフト社極東担当副社長に就任し、取締役新技術担当副社長。1999年工学院大学大学院博士(情報学)。現在、学校法人須磨学園 学園長、尚美学園大学芸術情報学部音楽応用学科 学科長、大学院芸術情報研究科教授、埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授。