社長が簿記を学ばない会社は伸びない

好きこそものの上手なれ

-学生時代、簿記が得意科目だったとお聞きしました。

初めて簿記を学んだのは高校の授業でした。習ってみると、借方と貸方が必ず一致するなど理論的なところが好きになって、「好きこそものの上手なれ」で得意科目になりました。珠算が好きで計算が早かったこともあり、相乗効果が働いたと思います。

何かを勉強する時、上達する早道は、「如何にして好きになるか」が大事であり、好きになるためには「なぜ勉強するのか」を理解することですね。簿記の場合は、決算書を読んで会社の経営状況を把握するために勉強するわけです。決算書を読めなければ経営の醍醐味は味わえません。簿記を教える方々にも、ぜひ、教え子に、簿記を学ぶ目的をしっかり伝えていただきたいと思います。

また、簿記を勉強していた時に感じたのは、検定試験を受けることが励みになるということです。検定試験のいいところは、努力し、合格して、一つ一つ階段を上がり、自分の実力が確実に上がっていることを実感できるところだと思います。

数字から目をそむけてはいけない

-税理士のお立場から見て、簿記はどのような存在ですか。

IMG_4700 (2)仕事上、大勢の経営者の方々と接してきました。その経験をとおして痛感するのは、「経営者が簿記を学んでいない会社は伸びない」、ということです。率直に言って、実際には簿記の勉強をしていない経営者が大勢います。技術を持っている方であっても、営業が得意の方であっても、経営者であれば数字を整理して理解する、具体的には決算書を読むことができないといけません。経営者や経営幹部は、少なくとも簿記3級くらいの知識は絶対に必要です。3級であれば数か月で学ぶことができますから、ぜひとも勉強すべきです。社長が数字から目をそむけてしまったり、簿記を軽んじるような会社では、決して業績は伸びません。心の底からそう思います。

では、簿記を学んでいないとどうなるのか、三つほど例を挙げたいと思います。一つは、税理士や公認会計士など専門家の話を聞いても、十分に理解できないということです。社長さんたちと話していると、「この人は簿記を勉強したことがあるかどうか」がすぐにわかります。二つ目は、数字が間違っていたとしても、間違いを見逃してしまう危険があるということです。簿記を学んでいないと、社員から報告を受けた時に、もし報告の内容が間違っていても気が付かないかもしれません。三つ目は、自社やお客様である会社の財務諸表を読む時に、余分な時間がかかるということです。「決算書の読み方」といった「ハウツー」ものの知識しかない人と、何が借方に来て、何が貸方に来るかといった仕訳のしくみなど、簿記を勉強して財務諸表の基礎になる原理原則を知っている人を比べると、ハウツーしか知らない方は、内容を深く理解するために、結果的には余分な時間がかかります。経営者にとって、簿記は必須の知識なのです。

経営者には学ぶ習慣が必要

-現実には、多忙な社長さんが簿記を勉強するのは難しいのではないですか。

私は、かねてから「経営者こそ学ぶ習慣を身に付けるべき」と提唱しています。一年間に5時間くらいは確保して、簿記をはじめ経営者に必須の知識を学ぶべきです。

車を運転するためには基本を学び、免許証を取りますね。同じように、会社経営でも最低限のことを学んだ証として「経営免許証」を導入すべきだと思います。「事故」を起こして取引先や家族に迷惑をかけることがないよう、自分の会社の決算書が読めるなど、経営に必要な最低限の知識を学ぶべきです。これは、融資を行う金融機関にとっても好ましい話なので、一定期間「無事故」の会社は金利を優遇される、という方法も考えられると思います。経営者が勉強する習慣を付けることのお手伝いは、商工会議所の仕事だと思いますし、一見、遠回りのように見えても、その企業の成長のためには、結果として近道だと思います。

Profile

清水 武信 Shimizu Takenobu
1944年、埼玉県生まれ。狭山商工会議所(埼玉県)会頭。税理士。税理士法人SKJ代表社員。狭山ケーブルテレビ株式会社代表取締役社長。株式会社日立製作所勤務を経て、1970年、税理士登録。1971年、清水会計事務所創業。1992年、狭山ケーブルテレビ株式会社設立。2003年、税理士法人SKJ設立。2010年、狭山商工会議所会頭就任。自らのブログで簿記の有用性などについて発信。