簿記は現代を生き抜くためのツール

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経営者は簿記を学ぶべき

-簿記と出会ったのはいつ頃ですか。

家業を継ぐことが決まった時に、経営者として決算書を読む必要ができたため、父の勧めで、富士商工会議所(静岡県)の講座に通って簿記3級を勉強しました。この時の勉強は今でも役に立っています。また、そんな私の姿を見て、今、私の右腕として働いている常務も簿記を学びました。
経営者にとって、簿記は欠かせない知識ですが、実際に学んでいるとは限りません。私は経営指標に関するセミナーの講師をすることがあり、決算書をもとに「自己資本比率を高める必要がありますね」などと経営者の方々と話すのですが、いま一つ理解されていないと感じることがあります。参加者は、熱意があり、会計にも関心の深い社長さん達ですから、理解されない原因は、やはり簿記を学んだ経験の有無にあると思います。

-簿記を学んでこなかった方々に、簿記の必要性は伝わるでしょうか。

例えば、社長さんに対して、決算書をもとに、「どうしてこれだけしか利益が出ていないのですか。このままでは会社は○年後に倒産しますよ」と指摘します。必ず「なぜ?」と反応が返ってきますよね。その時に、「減価償却は何年で見ていますか」「人件費比率は何%にしていますか」と質問します。そうすると、その社長自身が、「簿記の知識が必要だ」と、ということに気付いてくれます。
経営者は、自分で決算書類を作らなくても、出来上がった書類を読む力、少なくとも、「おかしな数字」に気付くことが必要なのです。

若い時からお金の教育が必要

-お金についての教育が重要だ、とおっしゃっています。

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私は商売をする人間の家系に生まれたので、小さい頃から小遣い帳をつけ、親はその遣い途を見て小遣いの額を増減するなど、当たり前のようにお金の話をしながら育ちました。学校で三権分立など政治の仕組みを学ぶのと同じように、お金に対する教育が必要だと思うのですが、日本ではそれが足りないと思います。資本主義社会に生きる以上、経済の仕組みとしてお金について学ぶことが大切です。会社でも社員に「若いうちからお金のことを考えないとこれからの社会では生きていけない」と言っています。
お金について考えることがなぜ重要か。例えば、就職するのであれば、入りたい会社の決算書を見るべきです。また、サラリーマン家庭では、現役の時は収入と支出という家計簿、つまり損益計算書(PL)の世界で済むのですが、退職すると収入が年金などに限られるので、単に節約するだけではなく、引退前にどうやって資産を増やし、引退後にその資産をどうやって取り崩していくか、というバランスシート(BS、貸借対照表)を考えることが非常に重要になります。こうしてお金のことを考えて生きていくためには、どうしても簿記の知識が必要です。

すべての高校で簿記を学べるように

-社会に出るためには簿記を学ぶべきだと。

人生の重要な場面で、お金から離れて生きていくことはできませんから、社会に出る前に簿記を学ぶべきです。また、簿記は、単にお金を管理するための方法ではなく、世の中を自分で分析し、理解して、行動するための道具です。
そのため、私は、商業高校だけではなく、普通高校であっても工業高校であっても、すべての高校生が、選択授業として簿記を学べる環境を整えるべきだと思います。
簿記は、現代を生き抜いていくために必要不可欠なツールです。簿記を勉強すると、お金を通して、それまでは持っていなかった「ものの見方」を身に付けることができます。これがあるとないとでは、人生がまったく違うものになります。
簿記は「一生もの」ですから、高校生の時にはわからなくても、社会人になってから、「この知識が必要だ」と思った時に学ぶ、ということでもいいと思います。私が参加した簿記講座にも、幅広い年齢層の方が参加していました。大事なことは、若いうちから誰でも簿記を学べる環境を整えておく、ということです。

Profile

goto_03後藤 百合子 Yuriko Goto
1963年静岡県生まれ。早稲田大学卒業後、公益法人、マーケティング企業勤務を経て独立。その後、日系商社に入社し香港・マカオ・中国本土で営業・生産管理業務に従事。1998年、家業継承のため後藤製紐株式会社(現こるどん株式会社)入社。2000年、代表取締役就任。2012年、シンガポールに現地法人を設立。