国境を越えてどこでも戦える「一生モノの武器」を身につける

民間企業、独法、学校、そしてSVリーグ(バレーボール国内トップリーグ)へ、多様な組織の経営・ガバナンスを支える

- 現在は公認会計士としてどのようなお仕事をされているのでしょうか。

公認会計士の資格とこれまでの経験を踏まえて、幅広い分野・業界でコンサルティングやガバナンスの強化に携わっています。

メインとしているコンサルティング業務では、企業の経営改革や経営改善、事業計画の策定から経営戦略の立案まで、クライアントの根幹に関わる支援を行っています。近年では時代の要請もあり、企業における不正調査や内部統制の構築、ガバナンス(組織統治)の強化といった、組織の健全性をチェック・構築してほしいというご依頼が増えています。

スタンダード市場やプライム市場に上場している複数の企業で社外取締役や社外監査役を務めるとともに、学校法人や社会福祉法人、独立行政法人、公益社団法人(SVリーグ)など民間企業とは異なる組織で監査に従事したり、監事を務めさせていただいたりしています。

資格取得までの道のりで得た「自分に合ったやり方を工夫する」力

- 元々、どのような経緯で公認会計士を目指されたのでしょうか。また、資格取得までの道のりで得た経験が、その後のキャリアにどう活きたと感じていらっしゃいますか。

私は最初から会計士を目指していたわけではありませんでした。原点は、大学卒業後に就職した事業会社での経験にあります。入社してすぐ、上場企業の本社建て替えに合わせたIT関連全てを新規に構築する一大プロジェクトがあり、私は課長とともに担当することとなりました。

その後、「コンサルタントとして本腰を入れて生きていくために、自分を支えてくれる強い後ろ盾が欲しい」と考え、「公認会計士」に挑戦することにしました。担当顧客が金融機関だったため、簿記3級の学習を始めていたところ、2級に合格することができました。「自分は簿記や会計と相性が悪くないな」という手応えがあったことも、会計士を目指したきっかけです。

当時は一人一台のPC環境はなく、メールもインターネットも普及していないアナログな時代でした。そんな中、技術部門や協力会社などの力を借りながら、顧客の業務効率化や当時は影も形もない、今で言うワークフローの見直し、キャッシュレス(社員証での社員食堂での支払い)導入などの実現に奔走しました。こうした多様な経営課題を解決していくプロセスが楽しく、「将来もこうしたコンサルティングの仕事に従事したい」と強く思うようになりました。

本格的な受験勉強を始めても、仕事との両立で勉強時間は極めて限られていました。朝7時から専門学校で答練を受け、答練の解説を30分ほど聴いてから仕事へと飛び出す毎日でした。原価計算や簿記といった受験科目を前に、「入門、基礎、応用と少しずつレベルアップしながら何度も繰り返す時間はない」と割り切り、信頼できる先生の講座を1つ選びテープで何度も聞いたり、1冊のテキストを何度も読んだり、1時間の試験問題を最後は15分で解けるようになるまで同じ問題を何度も反復したりなど、「限られた時間をどう戦略的に使うか」を工夫し、一回で会計士試験に合格することができました。

もちろん、受験勉強の中で得た知識は業務の基礎力となっていますが、「自分に合ったやり方を工夫する」ことを学ぶことができたのは、人生において大きな学びになったと思います。

健全なリーグ運営のために果たすべき役割

- 非常に影響力の大きいSVリーグの監事として、具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか。

2024年度から公益社団法人SVリーグの監事に就任し、現在3年目を迎えています。これまで民間企業での経験が長かった私にとって、スポーツ界という慣れない環境に身を置き、この2年間でまず強く感じたのは、独特な文化の存在でした。

スポーツ界には「ボランティア精神」や勝つことが最優先される「勝利至上主義」の文化が根強く残っています。もちろんスポーツには教育や文化などで重要な側面がありますが、リーグの監事として私が強く抱いた危機感は、「組織として健全な状態でスポーツを展開しなければ、いずれ負のスパイラルに陥ってしまう」ということです。

赤字を放置したり、ガバナンスやコンプライアンスを軽視したりすれば、最終的には大好きなスポーツを続けること自体ができなくなってしまいます。逆に言えば、SVリーグをより健全なものにしていくことが、結果としてバレーボールというスポーツ界全体の底上げに繋がっていくのだと考えています。

そのため、これまで民間企業や独法などの非営利組織で培ってきた知見をもとに、各種ガバナンスコードの改定や法改正の動向などを踏まえながら、SVリーグがより良い状態(あるべき姿)になるように、監事として向き合っています。

具体的な業務としては、法人としてのSVリーグの業績やガバナンスをチェックすることは当然として、SVリーグに所属する各クラブの財務状況や投資計画、ガバナンスなども含めて確認する必要があります。

現在SVリーグは「すべての所属クラブの運営法人独立化」という大きな経営方針の転換(プロ化への改革)を推進しています。この大きなうねりの中で、各クラブも必死に動いています。例えば、「自分たちの地域に新たにアリーナを建設しよう」という強い思いを持って、巨額の投資に取り組んでくれているクラブもあります。

「そのクラブの資金調達計画は本当に妥当か?」「クラブとして持続可能な状態か?」といった、各クラブのリアルな財務状態をSVリーグ側がより細かく、かつ正確に把握・サポートできるようになることが、SVリーグを本当の意味で「健全なリーグ運営」へと近づけるために果たすべき役割の1つだと考えています。

あらゆる職種で差がつく「会計の素養」

- 業種を問わず、社会人として活躍する上で、会計の素養を身につけておくことは、個人のキャリアにおいてどのような強みをもたらすと考えていますか。

「簿記や会計は経理の人のもの」と思われがちですが、それは大きな誤解です。仕事をするうえで、簿記・会計の知識は全ての人が持っておくべきだと思います。

例えば、営業職であれば自社の製品がどれだけの利益を生み、どれだけのコストがかかっているのかを理解して提案をする。製造・開発職であれば、工場での生産効率や原価を意識して、「いくらで製品を作れるのか」を考えながらモノづくりをする。そして、起業家は、例えば、資金調達をする上で、銀行をはじめとする金融のプロフェッショナルたちと対等に対話し、信頼を得る必要があります。

このように、どのようなキャリアを歩むにしても、会計の素養があるかどうかで仕事の質や成果は劇的に変わります。

私がよく言及することですが、世界で通用する「国際言語」は3つあります。1つ目は英語、2つ目はコンピューター言語、そして3つ目が「会計言語」です。

法律などは国によってルールが異なるケースがありますが、会計のルールは世界的に見てもほぼ国際基準で一律になっています。つまり、一度会計言語を身につけてしまえば、国境を越えて世界中のどこのビジネス舞台でも戦える、あなただけの一生モノの武器になるのです。

簿記は未来の自分への投資。「人生の選択肢」を持ち続けよう

- 最後に、現在日商簿記を学ばれている方々や、これから社会へ出る若い世代に向けて、矢野さんからエールをお願いします。

勉強と学業または仕事の両立は、決して楽なことではないと思います。心が折れそうになることもあるかもしれません。

しかし、簿記検定の素晴らしいところは、「努力の成果が、〇級という客観的なカタチになって自分に返ってくること」です。「私は3年間必死に勉強しました」と口で説明しなくても、「日商簿記〇級を持っています」と言えば、あなたの努力と実力は一瞬で相手に伝わります。

着実にステップを積み上げていけば、それは必ずあなたのキャリアを支える揺るぎない自信となります。一歩を踏み出し、努力を続ける皆さんを心から応援しています。

Profile

矢野 奈保子 Yano Naoko                        1962年福岡県生まれ。公認会計士。大学卒業後、民間企業での実務経験を経て公認会計士資格を取得。独立後は、数多くの企業の経営改善や事業計画策定、ガバナンス・内部統制の強化といった多角的なコンサルティングを展開。また、学校法人・社会福祉法人の監査や、上場企業での社外取締役・監査役、独立行政法人の監事などを歴任。2024年度からSVリーグの監事に就任。