すそ野を広げトップレベルの人材を育成

 

小学生でプログラムを書く

-プログラミングとの出会いを教えていただけますか。

最近、プログラミングに挑戦する小学生が大勢いますが、実は私も、小学生の時に初めてプログラミングと出会いました。父がもらってきたパソコンを、Basic(ベーシック)という言語で動かしたのが最初です。当時(1980年台)は家庭用パソコンが出回り始めた頃で、趣味でパソコンを動かす子どももいて、私も自分でプログラムを書いて動かしていました。ところが90年代になると、パソコンはアプリを使って利用することが主になり、趣味でプログラムを書く人が減りました。その結果、意外なことに、40歳以上の人のほうが、20~30歳代よりもプログラミング経験者が多い、というのが実情です。

「プログラミング好き」が評価される世の中に

-会社としてプログラミング教育に力を入れていますね。

私達の会社は、IT人材不足といわれる昨今、人材育成を社会貢献ととらえて事業を展開しています。重視しているのは、プログラミングに触れる子どもの数を増やし、その中からプログラミングが得意な子を見出すことです。サッカーでも水泳でも、大人になって、その道で稼ぐ人はほとんどいません。でも、子ども達は、それをやってみることで「やりたいこと」を見つけられますし、大人はそれを後押しできます。

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そして、プログラミングが好きな子も評価される世の中になってほしいですね。そのためには子ども達みんながプログラミングを学び、その価値を理解することが必要です。学ぶ中からプログラミングを好きになる子が出て、例えば「日商検定の最年少合格者」が取り上げられると、「カッコいい。自分もやろう」と真似する子が出てくる。そんな循環が生まれるといいですね。検定試験はいい腕試しの機会になると思います。また、私が「U-22プログラミング・コンテスト」(※1)や未踏事業(※2)に参加しているのも、トップレベルの子を育てるためです。
(※1)当初は経済産業省、現在はIT・ソフトウェア業を中心としたスポンサー企業が優れた人材の発掘・育成を目的に開催している、作品提出型のプログラミングコンテスト。
(※2)IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が、ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイディアと技術を有するとともに、これらを活用する優れた能力を持つ、突出した若い人材を発掘・育成することを目的に行う事業。

教育は社員の成長機会

-プログラミング教育を通じて、どのようなことを期待されていますか。

子どもたちが将来なりたい職業として「ITエンジニア」が上位に挙がる中、プログラミング教育は、子ども達に喜ばれるとともに、教える側の社員に、自分の仕事に誇りを持ってもらう機会にもなります。
仕事には、業務と成長機会という二つの側面があります。業務だけでは同じことの繰り返しになりかねませんが、成長機会があれば、結果的に業務の成果も向上します。プログラミング教育は、成長機会としていい取り組みだと考えています。
私は、これからの社員教育は、個々の社員が自分の二つ目、三つ目の強みを見つける機会になると思います。プログラミング教育も、そうした機会の一つです。子ども達と向かい合う中で、社員がプログラミングを学ぶのはもちろん、コミュニケーション力や、段取りを整える力など、様々な能力を身に付けることに意味があると考えています。

プログラミングを「楽しむ」子ども達を増やす

-プログラミング教育について、先生方や親御さんの反応はいかがですか。

私達は、学校教育と連携してプログラミングの授業を行うこともありますが、学校の先生方にお聞きするとたいてい、「最初は『プログラミングは自分には教えられない』と思っていたが、子ども達の楽しそうな姿を見て、『教えられそう』に変わった」とおっしゃいます。

プログラミング教育はIT教育の上流に位置するものです。if文(ある条件を満たす場合の処理と、そうでない場合の処理を分ける)やループ(指定した条件を満たすまで、繰り返し行われる処理)などに代表されるプログラミング的思考は、コンピュータを動かすときの前提であり、頭が柔軟なうちに学んでおくべきです。職業訓練としてのプログラミング教育は、誰もが学ぶわけではありませんが、プログラミング的思考はすべての人に必要です。ただ、最も重要なことは、コンピュータやプログラミングは決して怖いものではなく、楽しいものだとわかってもらうことです。

子ども達が喜ぶ姿を見て親御さんも喜んでいます。先日、プログラミング教育の参加者を募集した時も、定員をはるかにオーバーして締め切った後に「何とか参加できないでしょうか。うちの子が初めて、自分からやりたいと言い出したので」という親御さんがいらっしゃいました。また、特別支援学校に通うお子さんが、障がいと関係なくプログラミングを学ぶ姿を見て、親御さんや先生が子どもの可能性を感じた、ということもありました。ぜひ、多くの方に、プログラミングを楽しんでいるお子さん達の姿を見ていただきたいですね。

Profile

sakura03田中 邦裕Tanaka Kunihiro
1978年大阪府生まれ。1996年、国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業、レンタルサーバ事業を開始。1999年、さくらインターネット株式会社を設立、代表取締役社長に就任。その後、最高執行責任者などを歴任し、2007年より現職。現在は、情報処理推進機構(IPA)未踏IT人材発掘・育成事業プロジェクトマネージャー(PM)、コンピュータソフトウェア協会(CSAJ) 副会長、日本データセンター協会(JDCC) 副理事長など、各種団体に多数参画。CSAJでは、プログラミング教育委員会の委員長も兼任。