「企業価値」を高め、スポーツを通じた地域創生を

「営業はオフェンス、会計はディフェンス」

-早くから起業をされたと伺いましたが、いつ頃会計の知識が必要だと思われたのでしょうか。

私が本格的に会社を立ち上げ独立したのは30歳のときでした。当時から「会社たるもの赤字は悪」ということを強く思っており、これまでの経営人生で、赤字決算を出したことはありません。
経営にあたっては、会計の5要素(資産、負債、純資産、収益、費用)を重視しています。経営するうえで必要性を感じたので起業と同時に会計の勉強をしましたが、会計は会社の実態が数字で把握できるよくできた仕組みだと思いました。

経営者の目標は、経営理念の実現に向けて持続性の高い会社をつくることです。そのための事業活動すべてを見ているのは会計ですし、数字は嘘をつきません。また、バランスシート上の評価と世間の評価は、ほぼイコールになると考えています。

よく「営業はオフェンス、会計はディフェンス」と言われますが、スポーツと同じで、経営者はどちらも同じくらい理解しておくことが、バランスの良い経営に繋がります。そのため、経営者は本業に力を入れるのはもちろんですが、会社の会計構造を理解することが大切です。会計の専門家に依頼をする際も、経営者自身が最低限の企業会計をわかっているからこそ任せられるものだと思いますね。

クラブ再建の鍵は「財務諸表」

-千葉ジェッツを再建する際に、会計を重視したとお伺いしました。

プロバスケットボールクラブの再建に携わった当初、経営は非常に厳しい状況でしたが、そのような中でも将来に対する可能性を感じてもらうための裏付けが「財務諸表」でした。財政的な裏付けがないと、どんなに大きなストーリーを描いても相手にされません。財務諸表を通じて「黒字経営」ができることを示して、再建策を説明にまわりました。shimadamid

スポーツクラブの世界は、財政的に苦しいところも多く、「企業価値」を評価されるよりも、寄付を中心に支援されることが一般的でした。しかしそのような構造では遅かれ早かれ経営に行き詰まると感じていたので、地域やスポンサーから企業価値を評価されるクラブとして成長したいという理念を持っていました。そのための一丁目一番地がバランスシートの改善でしたし、それは今でも変わりません。

また、私が千葉ジェッツの経営に携わった当時から、継続して決算状況を公開していますが、当時の日本スポーツ界では異例のことでした。私達は利益が出ていることを公表することで、世間の評価を上げていこうと日々チャレンジしています。そして、社員一人ひとりがその意識を持つことはクラブの成長を支えるエンジンになると思っています。

バスケットボールのクラブは、企業規模としては中小企業であり、チームの「価値」を向上させていくことがミッションだと感じています。企業としての「価値」が高いと認められれば、地元経済にも貢献できますし、収益性が増して、企業としても新しいチャレンジができます。地域と良い関係を築くことは、やがてはスポーツを通じた地域創生につながると思います。
そのためには感覚的なものだけでなく、数値で示した結果を残していくことが重要だと考えています。従来のスポーツクラブとは異なるかもしれませんが、私達は会計以外にも、観客動員数や勝敗など、どういう数値を残せばクラブの社会的評価が上がるのかといった「数字」にこだわっていきます。

会計を知ることで「経営感覚」が備わる

-社会人が会計知識を身につけるメリットはどのようなものでしょうか。

メリットは非常に多いと感じますが、一番はやはり「経営感覚が備わる」ことです。

私は最初に就職した会社で経理部門に配属されました。当時の自分がやりたい仕事とは違いましたが、会社を全体的に見渡す習慣がつきました。今思えば、最初に経理の仕事に就いて良かったのかもしれません。経理は一見地味な仕事に見えますが、出てくる数字は会社の実態を教えてくれます。

日々の業務にはそれぞれに役割がありますが、自分の動きが会社にどのような影響を与えるのかを「会計」という尺度から見られることは仕事をする上で重要です。また、会社の構造の本質がわかると、マクロ的な視野を持ちながら業務に取り組めるようになります。
簿記や会計知識を持っていなくても仕事はできますが、知った上で仕事をしている人との差は非常に大きく、必要性に気付けるかどうかが大きな差につながると思います。マネジメントに携わる方々は、少なくとも「会社の成績簿」である財務諸表が読める程度の知識は必要ではないでしょうか。

今はインターネット上でも勉強できるツールがいろいろ出ていますので、まずは学習を始めてみることをおすすめします。また、ご自身の経営やマネジメントの現場と結びつけて学習すると、学びのスピードが高まりますので、ぜひチャレンジしていただきたいですね。

Profile

shimadaprof2島田 慎二Shimada Shinji
1970年、新潟県生まれ。1993年日本大学法学部卒業。同年マップインターナショナル(現エイチ・アンド・エス)入社。2001年(株)ハルインターナショナルを設立。2012年に株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長に就任。Bリーグ理事。