資料作成の極意は「見やすく、シンプルに」

外資系投資銀行の資料作成の哲学は「誰が見てもわかるものをつくる」

-外資系投資銀行勤務時にエクセルのスキルを身につけたとお伺いしました。

学生時代もエクセルを使ったことはありましたが、本格的に勉強をしたのは外資系投資銀行にいたときです。企業買収などで数千億円から数兆円規模の金額を扱う仕事柄、絶対に計算ミスが許されないプレッシャーの中で、高いスキルを要求されました。
銀行では、シンプルな計算構造で誰が見ても理解できる資料を作成する哲学が徹底されていたこともあり、データ分析やエクセルに関する知識を身につけ、正確に素早く資料を作成するスキルが磨かれました。

その後別の事業会社に移り、事業計画や収益計画をエクセルで作成していたところ、同僚から「資料がとても見やすい」といわれ、私が外資系投資銀行で身につけたスキルは学習ニーズがあるのではないかと感じたことから、2013年よりエクセルセミナーを始めました。

セミナーを始める前は、事業計画の作り方や経営シミュレーション、収益計画の作り方にニーズが高いと思っていました。しかしいざ始めてみると、誰が見てもわかりやすい表やグラフの作り方が好評で、そちらのニーズが極めて高いことに気付かされました。

秘訣は今持っている知識を徹底すること

-セミナーを行う上で心がけているポイントはなんですか。51Uc3q4sdqL._SY346_

私のエクセルセミナーでは、難しい関数を極力使わず、目的とする操作を素早く行う方法と、見やすく見せる方法の基礎を徹底的に身につけられるよう心がけています。難しい知識を覚えるよりも、「今持っている知識を徹底して身につければ、エクセルを使えるようになる」と受講者が自信を持てば、そこからスキルは飛躍的に伸びていきます。

最近ではスマートフォンの普及で、PCを使用する頻度が落ちているせいか、アンケートなどでも苦手なものの上位に「エクセル」が挙げられるなど、資料作成を苦手としている人がとても多い印象を受けます。この原因の一つに、資料作成には統一的な「決まり」があるようでないことが挙げられます。しかし、社会人はPCを使用する時間がとても長いので、資料作成に苦手意識を持つことはキャリアを積む上でマイナスになります。

資料はコミュニケーションツールなので、中身を正確に相手に伝えられるものでなければなりません。ですから、例えば「表やグラフを作成する際には、社内でフォーマットを統一する」など、組織内で資料作成に関する決まりを作り、徹底することが重要です。組織内でルールを共有すると、実は業務を行う上で要求されるものはあまり多くないということがわかってくると思います。

資料作成のスピードアップは生産性向上につながる

-最近では企業研修の依頼も増えているそうですね。

依頼の大半は、資料作成のスキルを上げて業務の効率化につなげたいというものです。見やすい資料を素早く正確に作成できることは、業務の効率化につながり、労働時間を短縮する「働き方改革」にもつながります。

mid私の研修は、受講者によって内容を大きく変えることはありませんが、受講者層によって求められるスキルは異なると考えています。

例えば、経営者層の方はご自身で資料を作成することはそれほど多くありません。ですから、ご自身の操作スキルを上げることよりも、「資料作成ツールを使ってどのようなことが出来るのか」ということを理解し、情報や問題意識を正確に共有できることが重要です。そうすれば、正確な指示を出せるため作業の効率化につながります。
また、経営者層の方は、データを分析することも多いので、エクセルを活用して利益へのインパクトを知ることも大切ですね。

新卒者や若年者層の方は、資料を作成する機会が多いので、素早くシンプルな資料を作成するスキルが身につくよう指導します。最近の若い人はPC操作ができないとも言われますが、慣れていないだけで研修でPCを使い出すと目に見えて処理速度が上がるので、学ぶ機会を提供することが大切です。

これから社会人になる方には、入社までにPCに関する資格をとっておくことをお勧めします。最低限のスキルがあれば、入社後は企業ごとの決まりを覚えていくだけで済み、スムーズに業務に溶け込めると思います。

知識の詰め込みではなく、背中を押す指導を

-指導者の方へメッセージをお願いします。

エクセルやパワーポイントといった資料作成ソフトは、なんでも出来るがゆえに、何を教えていいか迷うことがあると思います。また、業務内容も細分化されており、すべてを網羅して教えることは難しくなってきています。しかし、基礎的なスキルを徹底して修得し、「苦手意識」がなくなれば、後は各個人が必要なスキルを独自に身につければよいのです。少しでも日々の業務に役立つものを教えながら、「自分でもできる」と自信を持たせてあげる指導をするといいと思います。

Profile

熊野 整Kumano Hitoshi
1981年神奈川県生まれ。2004年、ボストン大学卒業。モルガン・スタンレー証券入社後、大型M&Aや資金調達などを担当。現在はスマートニュース株式会社で事業計画等を作成するかたわら、エクセルセミナーを開催。主な著書に「外資系投資銀行のエクセル仕事術」「外資系投資銀行の資料作成ルール66」「外資系投資銀行がやっている 最速のExcel」など。