簿記で人生の「逆転勝ち」を目指そう

大学生に「会社の仕組み」を伝える

-各地の大学で簿記や会計を教えておられますね。

学生にはいつも、「簿記というツールを使って社会科見学ができるよ」と強調しています。「血液の流れによって人体のことがわかるように、お金の流れがわかれば会社のことがわかる」「この流れを記録する仕組みが簿記だよ」と。

また、公認会計士として企業の監査を行ってきた経験を通じて、大学生に「会社の仕組み」をよく話します。学生はみな顔を上げて、非常に興味深そうに聞いています。受験勉強とは違う学びに出会い、「面白い」と感じて火が付く学生や、勉強に目覚めて机に向かう習慣が付く学生もいます。

これから50年のために学ぶ

-他には、どのようなことをお話しされていますか。

「簿記で人生の逆転が可能だ」と言っています。簿記は大学生になってから初めて学ぶ学生が多いので、「東大生にだって勝つことができる」のです。今まで「勉強はつまらない」と感じていたとしても、これから先、会社に入って、あるいは自営で、50年近くビジネスをするための勉強だとわかれば、簿記に興味が湧いてくる。そして、頑張れば「逆転が可能」であり、公認会計士になることもできるわけです。

公務員になりたい人にとっても、簿記を学ぶことは非常に大切です。公会計改革といって、総務省は、すべての地方自治体に対し、平成29年度までに民間企業が採用している複式簿記の考え方を導入するよう要請しています。その背景には、これまで自治体など公的部門は、単年度の歳入と歳出ベースの単式簿記による会計を行ってきたため、資産や負債の詳細を正確に把握できないという課題を抱えています。国と地方自治体の債務が合計約1,000兆円に達している今、すべての公務員が簿記を学ぶ必要があると私は思います。

スポーツに似た簿記検定の競技性

-学習方法については、どのようにお考えですか。

「将来役に立つ」と言われても、それだけでは、なかなか勉強が進まないと思います。そこで、学ぶ意欲を高めるために、検定試験を活用しています。検定試験の良いところは、一斉に始めて、制限時間内に、ルールに沿って取り組むので、スポーツに似た、競技性の面白さをもっていることです。初めのうちは、「この取引は右に記入」「この場合は左」などと言われても、訳がわからないでしょう。でも、後で振り返ると「なるほど」と思い、簿記の素晴らしさに気付く時がやってきます。

私たちの役割は、学生に競技性の面白さを伝えることです。実際、「生まれて初めてこんなに勉強した」と言いながら、懸命に勉強し、社会に出てからその知識を活かして活躍する卒業生を大勢見てきました。それこそが、私たちの喜びです。中には、公認会計士や税理士になって活躍している人もいます。

仲間と一緒なら頑張れる

-大学での簿記講座は必修ではない場合が多いとお聞きしました。どうやって参加を呼び掛けているのですか。

初めが肝心なので、まずは新入生向けのオリエンテーションで簿記を学ぶ意義について話します。大学によっては、入学式直後に保護者にもお話します。今の大学生は、「身の丈に合った」大学に入ることが多く、保護者も「大学に入ってから勉強させよう」とお考えの方々が多いので、親に勧められて講座に入る学生も大勢います。

学んでいくと、だんだん簿記が面白くなってきます。日商1級など上を目指すと、また苦しむようになりますが、信じてやっていれば、ここも乗り越えられます。そのためには、仲間の存在が大きな力になります。私たちが開催している大学対抗の簿記大会や、日本商工会議所の簿記1級チーム戦「日商簿記-1グランプリ」に参加する中で、チーム内で切磋琢磨して実力がつくわけです。

簿記は職種に関係なく社会人にとって重要です。「企画書」や「プレゼン」という言葉に反応する大学生が多いのですが、どれも、会計的な数値が必ず含まれています。「数字嫌い」はビジネスパーソンとしてあり得ません。簿記に興味が持てない学生は、企業の実態に深く関係していることに気付いていないのでしょうね。1人でも多くの学生が簿記を学び、社会に出てから役立ててほしいと思います。

Profile


平澤 哲Hirasawa Akira
1965年、東京都生まれ。青山学院大学経営学部経営学科卒業。学校法人大原学園に在籍し、大学とのWスクールで大原学園に通学する方への公認会計士受験指導を行う傍ら、複数の大学にて教鞭をとる。学校法人大原学園講座教務本部 本部長、評議員。山口大学経済学部特任教授。公認会計士。