簿記界のスーパースターを育てたい

小学生から簿記を学ぼう

-小中学生向けに簿記の普及に取り組んでいます。ご自身も子供の頃から簿記を勉強したのですか。

いいえ、簿記とは縁がありませんでした(笑)。大学の経済学部に進学した時も関心はなかったのですが、将来、公認会計士になろうと決めたので、簿記や会計を勉強しました。私は、職業を決める時に、「上司の指示で働くのは自分には合わない」と思っていました。また、どのような分野の職業でもよかったのですが、その分野において高く評価されるとともに、安定した収入が得られる職業に就きたかったのです。私にとっては、それが公認会計士でした。

-なぜ、簿記を学ぶことを勧めるのですか。

法律と簿記・会計はすべての企業で必要だからです。日本の人口が減少し、市場が縮小shiba-mid1

する中で、企業は、限りある人材と資源を有効に活用して経営しなければなりません。その時に、簿記や会計の知識が活きてきます。例えば、どの企業の生産性が高いかを見極めなければ投資はできませんし、生産性の向上は、資産の価値が年々減少する減価償却のしくみを知らずにはできないのです。
また、創業したいと思っても、「失敗したらどうしよう」と諦める人がいますが、簿記を学べばその不安を減らせます。将来の職業を考える時にも、簿記を学んでいれば、自分が関心を持つ業界や企業に勢いがあるかどうかを判断できます。

ところが、簿記は、漢字や英語に比べて学習の「入口」が少ないため、勉強する人が限られます。日本人には係数感覚が優れている人が多いので、ビジネスや会計の才能を持つ人も多いはずなのに、埋もれています。特に小中学生の場合、子供も親も、簿記を学びの対象だと思っていません。でも、私は、小学校4年生で日商簿記4級、6年生で3級、中1で2級、中3から高1なら1級を学ぶくらいがいいと思っています。そこで、簿記への「入口」として「キッズ★簿記」を始めました。

ゲームで簿記の基礎知識を身につける

-「キッズ★BOKI」とは、どのようなものですか。

二つのことに取り組んでいます。一つは、子供向け簿記講座の動画づくりです。私が小中学生に、1回15分くらい教える講座を55本分、You Tubeに載せています。内容は商売の仕方が8割、簿記の知識が2割で、ビジネスに興味を持ってもらうことに重点を置いています。この動画を見た教育委員会や商業高校の先生からご連絡をいただき、簿記を学ぶ意義について講演することもあります。

もう一つは、「社長★BOKIゲーム!」です。2人~6人で遊び、それぞれがケーキ屋さんの社長として、元手(資本金)を増やすにはどうしたら良いかを考え、儲けがいくらになったかを確認します。ゲームを楽しみながら、商売の仕方、厳しさを理解し、簿記の基礎知識を身に付けてもらうことがねらいです。shiba-mid2

「社長★BOKIゲーム!」では、単価が異なる、仕入れ、売り上げのカードを順番にめくって「取引」するので、安く仕入れ、高く売ることを感覚的に学べます。店舗の増設、従業員教育、盗難のリスクもあります。取引の結果は「お店の通信簿」に記入し、最後に儲け(当期利益)を確認し、貸借対照表の左右が一致して子供達が喜ぶ、というゲームです。大学の公開講座や書店のイベントなどでご利用いただいていて、中級、上級者向けのゲームは社員研修にも利用されています。

「楽しむ」ことが大切

-簿記を学ぶ入口を広げると、どのようなことが期待できますか。

ブラジルでは子供達が小さい頃からサッカーに親しみ、その中からロナウド選手のようなスーパースターが現れました。日本でも、大勢の野球少年の中から、イチロー選手のようなヒーローが登場しました。同じように、簿記を学ぶ子供が増えて、その中から世界的企業の社長や政府の幹部、創業して株式を上場するような人材が育つことが私の夢です。スーパースターが登場すれば、簿記を学ぶ人がもっと増えます。そうすると、簿記の知識を持つ経営者が増え、企業の業績が向上し、日本経済の成長につながります。

そのためには、簿記を単に「知る」のではなく、友達と夢中でボールを追いかけるように、「楽しむ」ことが大切です。また、周囲の大人の献身的な支援も必要です。簿記や会計に携わる関係者が一丸となって取り組む価値のある、重要な課題だと思います。簿記界のスーパースターが誕生するよう、これからも頑張ります。

「キッズ★BOKI」についてはこちら

Profile

柴山 政行 Shibayama Masayuki
1965年、神奈川県生まれ。公認会計士・税理士。柴山公認会計士税理士事務所所長。千葉商科大学会計大学院非常勤講師。
1990年、埼玉大学経済学部卒業。1992年、センチュリー監査法人(現・新日本有限責任監査法人)入所。1998年、柴山公認会計士税理士事務所開設。2002年、柴山会計ラーニング株式会社を設立し、講演、中小企業向けコンサルティングのかたわら、小学生向けの簿記講座「キッズ★BOKI」主宰。著書に「日本一わかりやすい決算書の読み方」ほか多数。簿記検定独学応援ナビを運営。http://www.kaikei-tisiki.net/