地方創生の主役は簿記を学ぶ商業高校生
数字が一致する美しさに感動
-簿記を学び始めたのはいつ頃ですか。
実家が小料理屋を営んでいて、ある時、お客さんから将来の夢を聞かれ「数字を使って企業の経営をお手伝いしたい」と言ったところ、その方が、公認会計士や税理士のことを教えてくれたのです。それがきっかけで大学は会計学科に進み、簿記に出会いました。学んでみると、世の中の経済的な動きが貸借対照表や損益計算書に集約され、しかも、その数字が左右で一致するため、「簿記は美しい」と感動し、今でもその思いは変わりません。
中学生、高校生が簿記に関心
-全国の学校で簿記の重要性を語っておられますね。
私は、長年にわたり、中央大学経理研究所で公認会計士や税理士を目指す大学生に簿記を教えてきました。その中には商業高校で簿記を勉強し、入学してきた学生が多くいて、彼ら彼女らと接して感じることは、せっかく簿記を学んでいるのに「なぜ簿記を学ぶのか? 将来どのように活かすのか? を理解していない」ことと「学習の環境を整え、費用負担を軽くすれば、もっと成長できる」ということでした。
そこで、まず、全国の商業高校の校長先生をはじめ多くの先生方に簿記を学ぶ意義をお話しするところから始め、今では中学生や高校生、大学生、そして保護者の方々にお話ししています。
誰もが知っている会社の財務諸表を例に、「簿記は業績を語る世界共通の『企業言語』であり、学んでいないと、経営者が経営状況の変化を見落としたり、営業担当者が売掛金の回収をおろそかにしたり、製造現場でコスト削減が進まなかったりする。でも、簿記を学べば、問題点を見つけ、業績の悪化により雇用が失われる事態を防ぐことができる。簿記は企業を救い、人を救い、地域に貢献できる」そう語りかけると、子どもたちはとても興味を示します。
大学と連携して商業高校生をサポート
-商業高校生は、具体的にはどのように学んでいるのですか。
生徒達には、簿記を学ぶ重要性を説明し、それを学ぶことができる商業高校は素晴らしい学びの場であって、せっかくそこに入学したのだから、社会に出てから役立つ日商簿記を学ぼう。やるなら最難関の1級を目指そう、と呼びかけています。
とはいえ、日商1級ともなると、独学でもそれなりの費用がかかります。そこで、趣旨に賛同してくれた高崎商科大学と連携し、全国の商業高校を対象に日商1級や2級の学習を支援する取り組みを始めました。
具体的には、会計分野で商業高校と高崎商科大学が連携するHaul-A(High school and universitry link for Accounting)というしくみをつくり、32の高校と3団体が高崎商科大と協定を結んでいます(平成28年3月現在)。参加する高校生は、費用を負担することなく、大学が提供する教材・カリキュラムで簿記を学びます。毎年、多数の日商簿記1級合格者が出ています。優秀な生徒は、Halu-A特待生として、大学4年間授業料全額免除で簿記、会計を学び、公認会計士を目指すことができます。
Haul-A参加校の中でも、卓越した取り組みをしている4つの商業高校は、SAH(スーパー・アカウンティング・ハイスクール)として、我々公認会計士が直接、高校へ伺って指導をしたりしています。これらの学校では、運動部員が朝練の前や放課後の部活動の前にSAHタイムとして簿記を勉強したり、一年生全員が6月に日商簿記3級を受験するなどの取り組みをしています。ともすると、熱心な先生が勤務されている学校では簿記教育が盛んになり、その先生が転勤すると途切れてしまいがちです。でも、Haul-Aは、一定水準の簿記教育を継続できるところが特徴です。
地元に貢献する人材を育てる
-商業高校の生徒たちに、地元に貢献する人材になるようおっしゃっています。
簿記は「資格を取ることが目的」という人がいます。でも、私がいつも言うのは、「日商簿記検定の資格を活かし、また、公認会計士や税理士になって企業をサポートし、地域の経済社会の発展に貢献しよう。簿記は社会貢献の手段です」ということです。
いま、地方創生が重要な課題になっていますね。私は、地方創生のポイントは人づくりだと思っています。地場の産業をよくするには簿記、会計のわかる、経営状況を判断できる人材が必ず必要になります。公認会計士や税理士になって地元に帰ることで、シャッターが閉まった商店街を活性化させるなど、自分が育った地域社会に貢献できるわけです。
簿記、会計は、商業高校の生徒にとって、社会で生き抜くための重要な武器です。このことを伝え、一人でも多くの簿記会計の専門性を活かした取替不能な人材を育てることが私の役割であり、今後も全国各地で発信したいと思います。
Profile
小島 一富士 Kojima Kazufuji
1967年、愛知県生まれ。一般社団法人日本商業教育振興会代表理事、中央大学経理研究所専任講師、高崎商科大学経理研究所主任研究員、朝日大学会計研究部監督。1991年、中央大学商学部会計学科卒。1995年、公認会計士開業登録。2005年、税理士登録。
太田昭和監査法人(現新日本監査法人)を経て1995年、公認会計士小島一富士事務所開業。