経営がよくなる秘密は財務諸表にあり

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実践から身につけた簿記の知識

-簿記との出会いはいつ頃ですか?

若い頃、アルバイトとして数人でやっている税理士事務所で働きました。入ってすぐに先輩が辞めて、所長から「この会社の決算をお願いします」と書類を渡されたのです。当時の私は簿記を知らなかったので決算書の作り方がわからず、妻がある企業で経理の仕事をしていたので相談しました。その時、妻から「一つ一つの取引について、これは『借方』か『貸方』かと考えずに、現金収入や売掛金など『嬉しいもの』が増えたら左(借方)、借入金など『悲しいもの』が増えたら右(貸方)に記入すればいい」と言われて、「なるほど」と思い、仕事を進めることができたのです。

パソコンも電卓も無い時代のこと、長い試算表の用紙に算盤で計算した数字を埋めていくと、最後に左右(借方と貸方)の数字が一致することや、貸借対照表と損益計算書の当期利益が一致することが面白くて、仕事をするのが楽しくなりました。その後、他の仕事も任され、実務の経験を積み重ねて、数年後に税理士試験を受ける頃には、簿記論が得意科目になっていました。

会社経営の基本は財務諸表

世間では税理士のイメージが必ずしも伝わっていないのですが、お客様である企業の事務を代行するだけが仕事ではありません。活動の範囲が非常に広く、いろいろな場面で活躍ができて面白い、ということを多くの方に知っていただきたいですね。経営者のパートナー、あるいはコンサルタントとして、大手企業の合併買収に携わったり、中小企業の社長と経営改善に取り組むなど、掘り起こせば仕事はいくらでもあります。middle(2)

税理士は社長さんと二人三脚で会社を成長させたいと願って仕事をしています。「経営がよくなる秘密」は財務諸表にある、つまり、会社の基本は財務諸表にあって、経営者がそれを読めないでいいわけはありません。

ある上場企業では全社員に日商簿記3級を義務付けていて、営業部門の社員は「この会社と取引していいかどうか」をその会社の財務諸表によって確認し、また、製造部門の社員はコストに対する意識を強く持つなど、経理だけでなく、すべての部門で、簿記の知識が会社の成績向上に役立っていると聞き、なるほどと思いました。

ところが、社長さんの中には、税理士が、去年の貸借対照表や損益計算書と比較したり、人件費の比率について説明しようとしても、「俺は数字のことを聞いてもわからないから」と、話を聞こうとしない方がいます。部下に任せているのかもしれませんが、経営者が財務諸表に関心を持たないようでは会社の経営はよくなりません。税理士と連携しながら、社長自身が自社の財務諸表を読んで、過去の数字や同業他社と比較することを意識している会社は成長していきます。

私はいまだかつて、「税理士の仕事はつまらないから辞める」と言っている人に会ったことがありません。忙しい中でも人生を謳歌している人が多いですね。一人でも多くの方に、税理士の仕事をわかりやすくお伝えして、知っていただくことで、同じ道に進む方が増えることを願っています。

Profile

prof_kamitu神津 信一 Kozu Shinichi
1949年、東京都生まれ。香村正雄公認会計士事務所勤務を経て1980年、税理士登録。1980年、神津信一税理士事務所開設。2010年、KMG税理士法人設立。2011年、東京税理士会会長。2015年、日本税理士会連合会会長。