原作:髙見啓一(鈴鹿大学准教授)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

決算書(財務諸表)の作成をきっかけに、惨憺たる状況を目の当たりにしたZAIMの面々であった。

戦闘員C 「決算書なんてたかが数字じゃん・・・0を書き加えるとかして、ゴマかしたらいいんじゃねえの?」
統領 「ダメじゃ!それこそ悪の組織としての『信頼』がなくなる。粉飾決算は重罪じゃ!企業人たるもの遵法精神を持たねばならん。」
戦闘員C 「悪の組織が『信頼』『遵法』って・・・矛盾してるだろ!」
戦闘員A 「しかし、近頃の悪の組織はきちんと数値で経営を管理しているのですね。」
統領 「うむ。だからこそスポンサーへの明確な報告資料となるし、原因や改善策も論理的に考えることができる。財務諸表の存在は『前向き』にとらえるべきなんじゃ!」
戦闘員B 「あー、そういうことなんすね・・・。」
戦闘員A 「なるほど!」

-損益計算書の赤字を見て凹んでいた戦闘員たちも、統領の力説に感心するのであった。

戦闘員A 「たしかに、過去の事実としての数字は変えられませんが、赤字の原因は知りたいです。」
戦闘員B 「次に活かすためにも分析はすべきっす。」
統領 「そうじゃ!なによりも『報告の前のいいわけ』を考えるのが、ワシにとっては最重要じゃからな。」
戦闘員C 「おいおい・・・思いっきり『後ろ向き』じゃねえか。」
戦闘員A 「では、営業赤字の原因を、モンスターの部門ごとに分析していくのはどうでしょうか?」
統領 「うむ。『セグメント別損益計算』の出番じゃな。軍団ごとの評価を下すことにしよう。」
説明しよう。セグメント別損益計算とは、製品品種別、事業部別といった『セグメント』の単位で利益計算を行うことで、企業全体の利益獲得への貢献度を計る方法である。
戦闘員A 「統領、売上やコストの軍団別のおおまかな内訳です」
統領 「ほうほう・・・我がZAIMのエース部隊『ドラゴン軍団』はやはり売上も利益も上がっておるな。強敵の勇者をだいぶ討伐してくれたからのう。」
戦闘員B 「イカタコなどの『獣系軍団』はあまり成果が上がってないっすね。」
統領 「やはり刺身要因か・・・あいつらは。それよりも、我がZAIMの主力部隊である『ケミカル軍団』はどうなっておる?」
戦闘員C 「ケミカル軍団?ああ、スライムとか化学品の大量生産で作ってるやつか・・・」
戦闘員A 「残念ながら、大赤字です。最新鋭の製造機械を導入し、多額のコストをかけて生産しているこれらの軍団にこそ、大きな売上を上げてほしいのですが・・・。特に、カルシウムを大量に使って製造している合成スケルトンは・・・最悪ですね。」
スケルトン 「ちょっと雲行きが怪しくなってきたでやんす・・・。」
スライム 「ぷる~(泣)」

-ケミカル部隊のモンスターたちが、やりとりの様子を悲しそうな顔で見ている。

戦闘員A 「こんな風にセクション別に見ていくと、組織としての課題が分かってきますね。」
統領 「うむ。利益が出るセクションは残し、足を引っ張るセクションは縮小を検討しなければな。部門の再編成も必要じゃろう。」
戦闘員B 「今後はドラゴンに特化して製造するのが良さそうっすね。」
戦闘員C 「軍団編成を変更するときに、あいつらはドラゴンのエサにでもするか。」
イカ&タコ 「おたすけ~!」
スケルトン&スライム 「ひぃー!」

【数日後】

戦闘員A 「統領、魔王さまより伝令です。お読みください。」
統領 「なんじゃ?これからワシらも決算報告に行こうと思っていたのに・・・。なになに・・・『勇者の勢力が増しているため、優秀なドラゴン軍団は魔王軍直属部隊とする。』」
戦闘員B 「えっ?」
統領 『ZAIMの諸君は獣系やケミカルの部隊を主力に頑張るように。by魔王』
戦闘員C 「おいおい・・・。」
統領 「(ガーン)不採算部門だけやらされるのか、ワシらは・・・!」
戦闘員A 「どうやら、魔王さまもZAIMのセグメント別の状況を既にご存知のようですね。」

-これ吉報とホッとするモンスターたちであった。

スケルトン 「助かったでやんす。」
スライム 「引き続き僕たちが主役だねっ!」

次回予告

常敗軍団としての組織がしばらく続くことが確定したZAIM。
新たな視点「規模の経済性」に一縷の望みを見出す統領であった。
次回「量産型は強みとなるか?」お楽しみに!