原作:髙見啓一(鈴鹿大学准教授)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

製造間接費の全体像を把握し、コスト計算を行ったZAIMの面々であった。

戦闘員A 「統領・・・大変です。年間の製造間接費を計算したところ、年々増加傾向で、今期も軽く10億を超えそうな勢いです。」
統領 「そんなにかかっておるのか・・・。モンスターのコストにしっかりと加算していかねばならんな。」
戦闘員C 「でも、間接費ってことは個別のモンスターに紐づかないんだろ?どうやってコスト計算に入れるんだよ。」
統領 「お!お前も多少は分かってきたじゃないか。ここで『配賦』というコストの振り分け手続きが必要になる。」
説明しよう。「配賦」とは、特定製品の消費額が個別に計算できない製造間接費を、ある一定の基準によって製品ごとに割り当てて負担させる手続きをいう。
戦闘員C 「ふ~ん。じゃあ『ある基準』ってなんだよ。」
戦闘員A 「たしか操業度で振り分けるんでしたね。」
戦闘員B 「そうぎょうど?」
統領 「うむ。ナレーターばかりに説明を任せておくと、サボっていると思われてしまうので、ワシから説明すると、『操業度』とは工場の生産設備の利用程度を指す言葉じゃ。たくさん工場を使っていると思われるモンスターには製造間接費を多く負担してもらうことになる。」

-原価計算初級を勉強中の戦闘員Aがここで提案をする。

戦闘員A 「たとえば、製造にかかった作業時間などで振り分けるんでしたよね。これらのデータはすぐに手に入りますし、理にかなっていると思います。」
統領 「うむ・・・どうやって振り分けるかのう。」

-ここまで黙って聞いていたモンスターたちが意見を出し始める。

ミイラ 「ちょっと待ってくれ。作業時間で配賦するのだけはやめてくれ。俺は知ってのとおり、乾燥工程がある分、他のモンスターよりも時間がかかるんだ。高コストだなんて言われたくないね。」
戦闘員C 「あ~、たしかに。お前の場合はドライヤーの電気代もかかってるけどな。」
戦闘員A 「あとよくあるのは、主原料にかかったコストを基準にした振り分けですかね。ゴーレムのレンガ代とか、スケルトンのカルシウム代とか。」
ゴーレム 「オレ・・・ミンナヨリモ、ザイリョウオオイ。イヤダ。」
戦闘員B 「なかなか全員が納得する配賦基準がないっすね~。」
統領 「この際『生産量』という手もあるがな。生産した頭数で負担させるのがシンプルかもしれん。」
スライム 「ぷる~。それだけはいやだよ~。大量生産品の僕たちが不利じゃないかぁ~。」

-ケンケンガクガク・・・原価計算の知識を習得しつつあるZAIMのモンスターたちは一筋縄ではいかない。

統領 「う~む。意外と難しいものだのう・・・。大人なんだし、もっとスパっと誰かが折れんか。全く。」
戦闘員A 「そういえば統領、配賦で思い出しましたが、こないだの戦闘員忘年会の代金ですが、どう割りましょうか?」
統領 「ん?当然頭数で割り勘じゃろ?」
戦闘員C 「セコイな~。そこは年収ベースで割り振れよ。上司の統領が多めに出すのが筋だろ。」

-にわかに話が忘年会の費用負担に移るZAIMの面々であった。

統領 「バカモン。それは認められん。そもそも戦闘員C、お前が一番たくさん料理を食っとったじゃないか。食べた量で按分が妥当じゃ。」
戦闘員C 「ええ~!でも俺は食べる専門だぜ。戦闘員Bの方がガブガブと酒飲んでたじゃないか。酒の杯数で按分しようぜ。」
戦闘員B 「いやそれは困る。母ちゃんからの小遣いが少ない中で、やっと飲めたってのに・・・。戦闘員Aなんて、調子に乗ってボトルでシャンパン空けてたじゃないか。量じゃなくて金額での配賦こそ妥当じゃないのか?」
戦闘員A 「ギクリ・・・」

-モンスターたちはこの様子を呆れて見ている。

モンスターたち 「ほらな。自分たちがもめてるじゃねえか。」
統領 「よし!こうしよう。忘年会の経費は福利厚生費として製造間接費に回すとしよう。」
戦闘員A 「お、太っ腹ですね~!」
戦闘員B 「いいアイデアっすね。」
戦闘員C 「一件落着だな。」
ミイラ 「おい、ちょっと待て!俺たちのコストに乗せる気か?呪うぞコラ!」
ゴーレム 「オレタチノフタン・・・イヤダ。」
スライム 「ぷる~。そんなこと言うとヤケ酒飲むぷる~。」

気が付けば、普段の「付き合い」のコスト負担も悩ましい問題だったりするのである。読者の諸君も原価計算初級を学んで、損のない宴会を楽しんでくれたまえ。

次回予告

製造間接費の配賦もマスターしたZAIM戦闘員たち。
モンスター1体あたりの原価計算をしてみると、意外な結果に驚かされるのであった。
次回「モンスター工場のカネのウゴキ」お楽しみに!