原作:髙見啓一(鈴鹿大学准教授)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

戦闘員A 「これで製造原価の3分類『材料費』『労務費』『経費』が把握できましたね。」
戦闘員B 「あとはモンスターごとに足し算するだけっすね。
戦闘員C 「お前たちにどれだけコストがかかっているか、個別に分かるってことか。
モンスターたち 「なんか嫌な言い方だなあ・・・。」
統領 「いやいや。全モンスターの『共通コスト』である製造間接費もしっかりとコスト計算に入れなければ。」
説明しよう。「製造間接費」とは、製品間で共通で消費されていたり、特定の製品ごとの消費量が個別に把握できない製造原価を指す。
戦闘員B 「あ~、そういえば言ってたっすね。共通で使うモンスター塗装用のペンキとか工場の電気代は製造間接費になるって。」
戦闘員C 「俺の好きなカレーライスで言うと、他のメニューと共通で使う塩コショウ代とか、ガス代みたいなもんか。」
統領 「そうじゃ。戦闘員Cセンスがよいな。カレーライスを作るときのカレー粉は間違いなくカレーに使う材料じゃから、製造直接費である直接材料費になるが、他のメニューにも使う塩コショウ、油などは間接材料費ということになる。」
戦闘員A 「そう考えると間接材料って色々ありそうですね。」

-珍しく戦闘員Cを褒める統領であった。統領は間接材料について講釈を始めた。

統領 「まず代表的なものが、カレーで言うところの塩コショウ・・・戦闘員Bが言っておったニスやペンキ、補修材、接着材料などの『補助材料』じゃな。」
スケルトン 「俺の体も接着剤でくっつけてるのか・・・(カチャカチャ)」
戦闘員B 「戦闘中に外れないように、けっこういいやつ使ってるはずだぜ。」
統領 「あと忘れてはならんのが『工場消耗品』じゃ。軍手とか紙やすりといった工場で使用する消耗品じゃ。」
戦闘員C 「え、でも軍手って材料じゃないだろ。」
戦闘員A 「日々工場で消えていくものも、間接材料として製品原価に含まれるのですね。まさに消耗品ですね。」
統領 「製品を製造するために消費されるものは材料費となるのじゃ。ただし、個々のモンスターに紐づいて使っているものではないから間接材料費となる。」
戦闘員B 「へ~。なるほどっすね。このドライバーやスパナ、スライムをかき混ぜるバケツとかもっすか?」
統領 「『消耗工具器具備品費』じゃな。」

-戦闘員たちは持ち歩いている工具をしげしげと見つめている。

戦闘員A 「ZAIMでは耐用年数が1年以上のものは資産計上していますが、1年未満のものや金額の安いものは消耗品と同じ扱いとしております。」
戦闘員C 「へ~。俺このドライバー何年も使ってるけどな。」
統領 「お前の場合は、ちっとも仕事せんから工具が消耗せんのじゃ!業務実績は紙の上だけ。『ペーパードライバー』じゃな。シャレにもならん。」
戦闘員C 「ひでえ(笑)」
戦闘員A 「ウチで言うと、戦車のような工業製品チックなものは、かなりこういった材料を使っていますね。」
戦闘員B 「え?ウチって戦車も作ってるんすか?」
統領 「一応な。作者が軍事オタクや兵器マニアではないので、物語の設定が『RPG』になってしまったが、もし詳しいヤツが作者だったら、『悪の◯◯国の原価計算』になっていたかもしれん。」
戦闘員C 「ミサイルのコストとか、戦闘ロボットのコストとか・・・?」
統領 「うむ。ワシも独裁者として君臨したかった・・・。」
戦闘員A 「統領、それ以上はやめておきましょう。ちょっと危なくなってきました。」

-コラムの発禁を避けるため、統領をすかさず止める優秀な戦闘員Aであった。

統領 「そして次に労務費じゃ。これも直接労務費と間接労務費がある。」
戦闘員A 「以前確認しましたね。製品の製造をするために加工作業を行っている直接工の賃金だけが直接労務費で、それ以外は間接労務費になると。」
統領 「うむ。運搬などの間接作業を行っている間接工の賃金のほか、社会保険などの法定福利費、退職金への引当金繰入額などが間接労務費じゃ。」
戦闘員B 「ウチの組織、意外と保険とかちゃんとしててビックリしたっす。ウチのカミさん喜んでました。」
統領 「ホワイトな組織を目指しておるからのう。ただし、サボり時間も間接労務費として計算されてしまうから、そうならんようにな。戦闘員C!貴様のことだぞ。」
戦闘員C 「たしかに、製品に紐づかないもんな(笑)」

-労務費の話になると、四者四様で複雑な心境になる統領と戦闘員たちであった。

統領 「そして最後に間接経費。まあ、経費はほとんどが間接経費になるからのう。」
戦闘員A 「電気代とかガス代とかでしたね。ウチで最もかさむ経費です。」
戦闘員C 「自転車で自家発電させられてひどい目にあったな・・・。まさに自転車操業だぜ。」
戦闘員B 「こうしてみると製造間接費って多いっすね~。」
統領 「結局のところ、工場でかかっている直接的なコスト以外は全て含まれるからな。読者諸君!今一度、工場全体・会社全体でかかっているコストに目を向けてほしい。コストの全体像を把握して、初めて目標売上が見えてくるのじゃ。」
戦闘員C 「誰に話してんだよ。」

学びたい読者の皆様には原価計算初級の受験がオススメである(CMでした)。

次回予告

製造間接費の全体像を把握したZAIM戦闘員とモンスターたち。
10億を超える製造間接費が判明した先には、コスト負担をめぐる内紛が待ち構えていた。
次回「必要コストを振り分けヨ」お楽しみに!