原作:髙見啓一(鈴鹿大学講師)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

統領 「では経費とモンスターのコストとの関連に話を移そう。経費がかさむモンスターを挙げてみよ。」
戦闘員A 「しかし統領、経費はそのほとんどが『間接経費(製造間接費)』ですので、特定のモンスターのコストに紐づけるのが難しいです。」
統領 「うむ。製造間接費の『配賦』という手順が必要じゃな。その話はまた次回にでもするとしよう。」
戦闘員B 「でも直接経費ってなくないっすか?」
統領 「いや『外注加工賃』がある。」
説明しよう。外注加工賃とは、製品の加工の一部を下請け業者などに依頼するときに支払う加工賃をいう。
統領 「うちで最も外注加工賃がかかっているモンスターはなんだ?」
戦闘員A 「外注コストが高いのは『ゾンビ』ですね。最近勇者たちに大量に倒されているので、再生産が必要です。」
統領 「え?あれって原料は死体だろ?タダみたいなもんじゃないのか?」
戦闘員C 「新鮮な死体を市場で買ってきて、ちょっと内臓が生っぽいうちに処理して、サッと魔術をかけてゾンビとして復活させるんだよな。」
戦闘員B 「フランス料理みたいに言うなよ。」
戦闘員A 「お食事中のみなさま失礼いたしました。」
統領 「ところがな、肝心の仕上げ工程である『死霊魔術』をかけるのが、ワシらの技術・設備ではできんのじゃ。」
戦闘員C 「ああ、ネクロマンサー(死霊術師)のおやっさんに頼まないとダメでしたね。」
統領 「そう。競合のいない特殊な技術はコストがどうしても高くなる・・・。まさに資源依存モデルじゃな。」
説明しよう。このような代替する手段のない取引相手がいて、価格などの決定権を握られてしまっている状態を「資源依存状態」と呼ぶ。
統領 「中小企業にとっては生殺与奪を握られる重要な問題じゃ。仕方がない、戦闘員Cよ、おやっさんのもとで死霊魔術を習得してこい。」
戦闘員C 「できるわけねえだろ!(怒)」
戦闘員A 「思い切って、ネクロマンサーのおやっさんを雇って、ゾンビ完成までの一貫生産をやってしまうという手もありますよ。」
統領 「おお、M&Aか!内外製区分の検討だな。」
説明しよう。「内外製区分」とは、自社で内製するか他社に外注するかの判断をすることである。資源依存関係や取引コストが高い場合などは内製の方法を採り、市場に代替的な取引相手がいるような場合は外注の方法を採ることが一般的である。
戦闘員B 「でも、きっと高いっすよ。ネクロマンサーのおやっさんを雇おうと思ったら。」
戦闘員C 「上級魔術士だもんな。引く手あまただろうし。」
戦闘員A 「もしくは、こんなのを購入するのはどうでしょうか?歩留りは悪そうですが・・・。」

-戦闘員Aが製造機器のカタログを見せる。

統領 「なになに?『乾燥ゾンビ製造マシーン』だと?」
戦闘員B 「『新鮮な死体を入れて、市販のウッドチップで燻せば完成。煙は最小限で、マンションでも調理可能。内臓まで美味しい乾燥タイプのゾンビができます』・・・ほうほう。」
戦闘員C 「『スモークチーズも作れます』って書いてある・・・これいいな。」
戦闘員A 「しかし、設備導入となると少々お値段が張りますね。」
統領 「設備導入となれば、毎年の減価償却費やキャッシュフローとの関係から要検討じゃな。」
ツッコミどころ多数だが、「減価償却費」について説明しよう。減価償却費とは、工場建物や製造機械といった事業用に取得した固定資産の取得原価を、耐用年数に渡って年々費用化する処理のことを指す。
統領 「たとえば耐用年数5年の機械を500万円で購入したとすると、毎年の経費である減価償却費は100万円となる。キャッシュアウトのないコストじゃから、節税対策や資金計画にも役立つ経費といえる。」
戦闘員A 「これも原価計算には重要な発想ですね。『払ったとき』の初年度に500万円をコストにするのではなく、『使ったとき』の5年間に分けて100万円ずつコストとすることで、正しい原価を出すことができますね。」
統領 「そのとおり。すでに簿記の勉強をしたことのある読者諸君にはおなじみの減価償却であるが、『固定資産の価値を減らす』というところではなく、『5年に分けて費用化する』という事実に着目することで、原価計算的な発想が身につくじゃろ。」
戦闘員A 「たしかに。そうでなければ毎年の経営成績が正しく出せませんもんね。」
戦闘員B・C 「・・・んで、ゾンビはどうすんの~?」

-原価計算そしてその先にある利益計算の深い話に及び、戦闘員BとCには少々眠気が襲ってくるのであった。

ゾンビ 「ただいま戻りました~。」
戦闘員C 「あれ?お前こないだ勇者たちにコテンパンにやられたんじゃなかったのか?」
ゾンビ 「私ゾンビですもん。何度でも生き返りますよ。」
戦闘員B 「そういえばこいつらは不死身だったのか。」
戦闘員A 「しばらくは再利用でしのげそうですね。よかったです。」
ゾンビ 「そのかわり賃金払ってくださいね。死んだら年金もないので、昇給もよろしく。」
統領 「ちょっと待て、お前は不死身だから永久に人件費が上がり続けるじゃないか!!ゾンビの雇用は却下じゃ!却下!」

-経営者・労働者ともに他人事ではない原価計算の知識。モンスターたちも原価計算の知識を得て、ますます活気づくZAIMであった。

次回予告

製造原価の3分類である材料費・労務費・経費をマスターしたZAIMの面々。
直接費以外の間接費(共通コスト)がかなりの金額を占めることに気づく統領であった。
次回「モンスターの共通コストとは?」お楽しみに!