原作:髙見啓一(鈴鹿大学講師)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

統領 「労務費の構成が分かったところで、今月の計算と分析を行うとするか。」
戦闘員A 「はい統領。11月分の賃金・給料などのデータです。従業員の作業場ごとに分けておりますので、モンスターの原価も出しやすいと思います。」
戦闘員B 「俺たちの給料の総合計か・・・。」
戦闘員C 「今回は簡単そうだな。」
統領 「ククク・・・甘いのう(ウズウズ)。ウチの賃金は何日締めだ? 」

-今回も原価計算の講釈を垂れたくってウズウズしている統領であった。

戦闘員B 「毎月20日締めっす。」
戦闘員C 「で、25日に払うんだよな。」
統領 「11月25日にもらう給料はいつからいつまでの労働分じゃ?」
戦闘員A 「20日締めですので、10月21日から11月20日までの分で計算しております。」
戦闘員B 「え、おいおい。まさかこれも『11月分』だけ抜き出さないといけないのか?」
統領 「その通りじゃ!」
戦闘員C 「うわ。細かいなあ。」
説明しよう。給与計算期間と原価計算期間(1~31日)はズレるのが一般的である。そのため、以下のような調整を行う必要がある。
【当月賃金消費額(当月の労務費)=当月賃金支払額-前月賃金未払額+当月賃金未払額】
戦闘員A 「ってことは、10月21~31日の分は引かないとダメですね。」
統領 「11月21~30日の分を足すのも忘れずにな。」
戦闘員B 「カレーの材料費の計算と似ていますね。お金の支払時期とは一致しないんっすね。」
統領 「そう。原価計算は『払ったとき』ではなく『使ったとき(働かせたとき)』が原則じゃ。そろそろこの感覚にも慣れてきたじゃろ?」

-ドヤ顔の統領(と作者)の顔が浮かんだ読者諸君。この考え方は簿記や会計全般に言えることなので、覚えておいて損はないだろう。

統領 「これで金額は分かったのう。問題は使い道じゃ。」
戦闘員A 「材料費と同じように、直接労務費と間接労務費に分けるんでしたね。これもモンスターの製造に直接関わるかどうかで決まるのでしょうか?」
統領 「うむ。お前たちの給料や法定福利費はもちろん、電気係や修理係といった『間接工』の賃金も全て間接労務費になる。」
戦闘員B 「ってことはモンスター製造に直接かかわっている『直接工』の作業が直接労務費ってことっすか?」
統領 「いや。直接工の作業でも、間接的な作業があるじゃろ?運搬とかな。」
戦闘員A 「確かに。ミイラ男の製造チームの間接作業の時間が多いのが気になります。」
統領 「モノの付加価値を上げる作業は直接作業である『加工』のみ。それ以外は常に削減を検討すべきじゃ。現場へ行くぞ。」

-統領たちはさっそく製造現場を確認に向かうのであった。ここは前工程から流れてきたミイラ男に包帯を巻くラインである。工員たちは作業をせずにおしゃべりをしている。

工員 「(ペチャクチャ)あ、お疲れ様です。」
戦闘員B 「コラ!!サボってんじゃねえぞ!」
工員 「でも、乾燥工程から肝心の『ミイラ』が流れてこなくって・・・。」
統領 「むむ・・・いわゆる『手待ち』状態か。手待時間は何も生まない間接労務費じゃからのう。真っ先に削減をせねばならぬムダじゃ。戦闘員A!ここのメンバーにもドライヤーを渡し、乾燥作業の一部をここに回せ。ラインバランシングじゃ。」
戦闘員A 「はい!ドライヤーの数を増やします。」
戦闘員B 「ドライヤーで乾かしてるのか(笑)
説明しよう。「ラインバランシング」とは、生産ライン上で分担する作業量・作業時間の均等化を図る手法である。こうすることで、手待ちや仕掛品の停滞を減らすことができる。
統領 「それと、ミイラの運搬ルートが長すぎるのう。間接作業時間を減らすためにも、工場内のレイアウトの見直しも今後の課題としよう。」
戦闘員A 「原価計算って本当に役立つんですね!
戦闘員B 「統領が真面目に統領っぽい仕事してる・・・。」
統領 「そういえば戦闘員Cはどこへ行った?姿が見えんぞ。」
戦闘員A 「タバコを吸いに行きました。」
統領 「コラーッ!!」

-ムダの発見」や「改善の糸口探し」こそ、原価計算の十八番である。ZAIMの戦闘員全員がこの意識を持てるようになる日も近い・・・?

次回予告

3つの原価形態のうち、材料費・労務費をマスターしたZAIMの面々。
だが最後の形態である「経費」が、モンスターの原価に重くのしかかるのであった。
次回「かさむ経費!モンスター工場」お楽しみに!