原作:髙見啓一(鈴鹿大学講師)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

統領 「お前たち!材料構成が分かったところで、さっそく今月の材料費を計算するぞ。」
戦闘員A 「ということは、今月購入した材料費ですね(モグモグ)。あ、統領もカレー食べますか?私たち3人の特製カレーです。」
戦闘員B 「材料費の計算なら簡単っすよ(パクパク)。はい、今月のレシートっす。これでOKっすか?」
戦闘員C 「出た!ホームセンターのレシート(ゲプッ)」
統領 「お前たちなあ・・・材料費の計算ってのはそんなに単純じゃないんだぞ。」

-モンスター製造工場はお昼休憩の時間である。食堂では朝ドラの再放送がまったりと流れる中、統領だけは相変わらず鼻息が荒い。

統領 「先月から在庫として残してて、今月使った材料はどうしているのじゃ?」
戦闘員A 「その分は先月の材料費にしていますが?」
戦闘員B 「それじゃダメなんすか?」
統領 「お前らなあ~。いま食べておるカレーで考えてみよ。昨日買った材料で、今日カレーを作って食べたら、今日のカレーの材料費は0円か?」
戦闘員C 「いや。今日の材料費だな。」
統領 「そういうことじゃ「買った時」ではなく「使った時」に材料費とせねば正しい計算ができん。先月末から繰り越して今月使った在庫は今月の材料費とせい。」
戦闘員A 「材料費ってそこまで丁寧に出すんですね。ということは、今月余った材料も?」
統領 「そう。今月余って、来月使う材料がある場合、それは今月の材料費に含めてはならん。」
戦闘員B 「今日買ったカレーの材料も、明日料理するなら明日の材料費ってことっすね。」

-せっかくのカレータイムにうるさい説教を聞かされて、戦闘員も少々イラついている。

戦闘員C 「え~・・・てか面倒くせえな。使うタイミングで材料費にしろだなんて、製造現場でいちいち数えてられねえよ。」
戦闘員A 「たしかに、戦闘員Cの言い分にも一理ありますね。」
統領 「たしかに「継続記録法」は大きな企業でないとなかなかできんな。ここで経営感覚が出るんじゃよ。このBOX図を見よ。」
戦闘員A 「あ!なるほど!」
戦闘員B 「???」
戦闘員C 「??????」
説明しよう。この図は「棚卸計算法」という方法であり、「購入記録(買った量)」と「在庫数量(余った量)」に基づいて「消費数量(使った量)」を決定する方法である。
戦闘員B 「えっと・・・8月末の在庫が9月初の在庫に、9月末の在庫は10月初の在庫になるから・・・あ!すげえこの図。分かりやすい!」
戦闘員C 「9月初の在庫と9月の購入分を足して、9月末の使わなかった在庫を引く・・・あ、これで9月中に使った分が出るわけだ!やっとわかった!(読者のみなさんついてきてる?)」

-少々ややこしい論点をこのネット小説で解説できて、統領も(作者も?)ご満悦である。

統領 「クックック・・・原価計算の知恵は素晴らしいじゃろ。これは、売上原価の計算でも使われる方法なのじゃが、あまり専門的な話をすると読者に逃げられるからこのへんにしておこう。おいワシにもカレーを出してくれ。」
戦闘員A 「本当に、原価計算はよくできていますね。はい。統領。」
統領 「ククク・・・このカレーは美味いのお。ホクホクとした甘味があるわい。」
戦闘員B 「昨日から、ありったけの材料をぶち込んでコトコト煮こみました。」
統領 「モグモグ・・・材料が溶け込んでよい味じゃ。」
戦闘員C 「施設内にあった食べられそうなやつは全部入れたもんな。」
統領 「そうじゃ、お前たち。10月は『ハロウイン』の時期じゃから、ジャコランタン(パンプキンモンスター)の出荷を頼まれておる。10月から作業にかかるから、9月末時点での在庫のカボチャの数を数えておけよ。」
戦闘員A 「え・・・?」
戦闘員B 「パンプキン・・・。」
戦闘員C 「あ~あ。」

-勘のよい読者はお気づきのとおり、カボチャはカレーの中に・・・。原価計算の用語でいえば、材料が施設内から無くなってしまう「減損」の発生である。

統領 「この××~(ピーッ)!!ち~が~う~じゃろ~っ?!違うじゃろーっ!!(怒)」
戦闘員B 「わあ~。パワハラだー。」
戦闘員C 「逃げろ~(笑)」
統領 「これ以上、ワシの心を傷つけるなっ!(トホホ)」

-棚卸計算法の欠点として、減損による紛失はカウントできないというデメリットがある。まあ、カボチャのカレー美味しかったなら良かったんじゃない?ハッピーハロウィン!

次回予告

モンスターの製造に必要なのは材料費だけではない。
モチベーションの上がらない作業スタッフの賃金やいかに?
次回「戦闘員の生活保障」お楽しみに!