原作:髙見啓一(鈴鹿大学講師)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

戦闘員A 「『原価計算』というからには、我々モンスター製造工場でかかっている原価を把握しないことには始まりませんね。」
統領 「そのとおり。まずはモンスター1体1体にかかっている製造原価の洗い出しをせねばならぬ。」
戦闘員B 「製造原価?材料費のことっすか?」
統領 「材料費だけではないぞ。」
説明しよう。製品を製造するためにかかった費用(製造原価)は、形態別に3つに分類される。
①材料費:製品を製造するために使われる物品(材料)を使用したときの消費額
②労務費:製品を製造するために労働力を使用したときの消費額(工員の賃金)
③経費:材料費・労務費以外の全て(減価償却費や水道光熱費など)
戦闘員C 「ってことは、材料費をケチっても、残業や電気代が増えるとコストが下がらない可能性もあるってことか。」
戦闘員B 「マジかよ、それは盲点だな・・・。」
統領 「多くの企業もそんな状況にある。材料費のコストカットは迫られるが、労務費コストが下がらないというジレンマじゃ。」
戦闘員A 「ところで統領、ゴーレムの材料は『煉瓦』、スライムの材料は『洗濯のり』と、モンスター(製品)との関連が明らかなコストは分かりますが、モンスター塗装用ペンキや工場の電気代といった、モンスターとの関連がハッキリしないものはどうしましょうか?」
統領 「製品との関連における分類として、『製造直接費』と『製造間接費』に分けることになる。以上をまとめるとこうなる。」

【製造原価の構成】

統領 「製造間接費の配賦、製品コストへのいわゆる『振り分け方』についてはまたおいおい話そう。」
戦闘員A 「これで原価が出せますね。」
戦闘員B 「あれ?ちょっと待って。俺たちの給料がなくね?」
戦闘員C 「本当だ。俺たち事務員はどうなるんだよ。統領。」
統領 「お前たちは自分のこととなると敏感じゃのう。製造以外の販売や全体管理にかかるコストのことを『販売費及び一般管理費』と呼ぶ。」
戦闘員A 「我々のような製造にタッチしないものの給料は、製造原価ではなくここに分類されるということですね。」
統領 「うむ。製造原価にこれを加えたものが『総原価』じゃ。」

【総原価】

戦闘員A 「これで我がZAIMの総原価が把握できますね。」
戦闘員B 「さぁ帰ろうぜ。」
統領 「待て待て。総原価は工場全体の話じゃ。製品別すなわち『モンスターごと」』の製造原価をこれから調べていかねばならぬ。」
戦闘員C 「え~。だるいなぁ。」

-モンスターごとの製造原価の算出を試みる統領たちは、地下の大型モンスター製造現場へ降りていくのであった。

統領 「まずはこいつじゃ。現在製造中の中ボス級モンスターであるゴーレムからいこう。」
戦闘員C 「デカイな~。」
統領 「ビルなどの建築物と同じ、『個別注文』と呼ばれるオーダーメイド製品じゃ。こいつは上層部からの注文内容を記載した『製造指図書』に沿って作っておる。」
戦闘員A 「製造指図書より計算しますと、材料費が300万円、労務費500万円、間接費200万円・・・合計1,000万円となります。」
戦闘員C 「この世界『円』単位なのかよ・・・。」
統領 「ゴーレムは製造原価もかかるので、販売時の見積もりの基礎になるよう、このように1体1体コストを確認せねばならぬ。しかし・・・高いな・・・。」
戦闘員B 「ウチのマイホームを建てるときも同じような計算方法してたな。」
スライム 「プルプル?僕のコストはいくらなの?プルル?」

-彼はここのマスコットであるザコキャラ「スライム君」である。統領らの会話を聞き、自分のコストに興味を持ったようだ。

統領 「お前はひと月に何万匹も製造する『連続生産』製品じゃから、1体ずつの計算などしておれん。1ヶ月のトータルコストを製造個数で割り算することで求めるのじゃ。」
戦闘員C 「洗濯のりに着色料を混ぜて作るだけだもんな。」
戦闘員A 「スライムは現在、主原料である洗濯のり1キロリットルで約1万匹作ることができます。」
統領 「うむ。主原料である洗濯のりのコストと、それ以外のコストをざっくりと足して、1万匹で割り算する・・・そんなイメージじゃ。」
戦闘員A 「そうなると1体100円以下ですね。」
戦闘員B 「安いな。さすが。」
戦闘員C 「お前、100円ショップで買えるレベルじゃん。」
スライム 「プル~(しょぼん)」

自分のコストを知ってしまい、落ち込むスライム君であった。めげずに頑張れ!

次回予告

原価計算の概要が分かったZAIMの面々。
まずは材料費の分析から始めるのであった。
次回「モンスターの成分を分析セヨ」お楽しみに!