著者 : 鈴鹿大学講師 高見啓一

kentaro_8検太郎は今日もいつものコンサルティング先の商社に来ている。この会社では社員の簿記検定取得を推奨しており、簿記検定にチャレンジ中の熊田氏が検太郎に話しかけてきた。

熊田 「はじめまして検太郎先生。営業2課に所属しております熊田と申します。実は私も日商簿記3級検定試験に向けてチャレンジ中なのですが、苦戦しておりまして・・・。」
検太郎  「はじめまして。そうですか。多くのみなさんが3級からスタートされるのですが、最初は大変なんですよね。」
熊田 「そうなんですよ。大学で簿記を指導している検太郎先生に聞けばきっといい対策を教えてくださるよ、と1課の連中から聞いたもので、お声かけさせていただきました。」
検太郎  「そうですか、お役に立てれば嬉しいですが、どんなところに苦戦されているんですか?」
熊田 「えっと、とにかく難しいんです。昔から数字も勉強も苦手なんです。」
検太郎  「うーん・・・。漠然としてますね(笑)」
熊田 「具体的に言うと仕訳が苦手なんです。」
検太郎  「仕訳ですか。具体的にはどんな仕訳が苦手なんですか?」
熊田 「えっと・・・全部です(笑)」
検太郎  「全部ですか・・・困りましたね。」
熊田 「こんな私でも合格できる何かいい方法はないでしょうか?」
検太郎  「うーん・・・そろそろ昼食タイムですし、食堂で話しませんか?」

検太郎と熊田氏は社員食堂へ。仕事上、学食や社食を食べ歩くのが趣味である検太郎は、ここのカレーが一番のお気に入りである。

検太郎  「ところで、熊田さんはなんで簿記を取得しようと思ったのですか?」
熊田 「頑張って部署で『No.1社員』にならないといけないんです。」
検太郎  「No.1!すごい響きですね。具体的には、No.1って何のナンバーワンなのでしょうか?」
熊田 「何でしょうね?成績でしょうか。とにかくNo.1になれって上司が言うもんで。」
検太郎  「そのNo.1が何かが分からないと、対策の立てようがないですよね~。」
熊田 「そうなんですよ!どうも、うちの上司や経営陣はそういう言葉をよく使うんです。少なくとも損にはならなそうなので、とりあえず簿記を取ってみようかなって思って。」
検太郎  「No.1の要件がハッキリわからないとね。売上なのか、営業件数なのか、顧客満足度なのか、それによっては、熊田さんは簿記の勉強よりも接待に励んだ方がいいかもしれませんし。」
熊田 「確かに・・・漠然としていましたね。」
検太郎  「でしょ?要件が具体的に定義されていないと対策の立てようがないんですよ、熊田さんのご質問もね(笑)」
熊田 「あっ!そういえば僕の質問もですね!」
検太郎  「そうそう。数字が苦手って言っていましたが、具体的にどんなことなのか、仕訳だって、全部が苦手なわけじゃないでしょうし。具体的にどんな仕訳が苦手なのか、わからないと対処のしようがないですよね。」
熊田 「要件定義が大事なんですね。」
検太郎  「ゴールを具体的にしておかないと、何をしたらいいのかわからなくなりますからね。」
熊田 「わかりました。私の苦手どころを再度整理してみます。」
検太郎  「次回のコンサルの日にまた声かけてください。
ところで熊田さんね。ゴールは具体化のための要件定義も大事ですが、もっと大事なことがあるんです。それは『Why』です。」
熊田 「『Why』ですか?」
検太郎  「そもそも、『なんで』No.1にならないといけないのでしょうか?」
熊田 「そういえばそうですね・・・。」
検太郎  「もし俺が同じことを上司に言われたら、『めんどくさい~やなこった!』で終了です(笑)そういえばちょっと前に『二位じゃダメなんですか?』って流行りましたよね(笑)」
熊田 「『なんで』か。その点は盲目的になっていた気がします。」
検太郎  「一位じゃないと『会社が持続できない』とか、一位になれば『熊田さんの給料が上がる』とか『(その結果)家族を幸せにできる』とか、動機につながりますよね。『なぜ』がないと、意味のない定義になります。」
熊田 「確かに!」
検太郎  「なんで数字に強くないといけないのか?なんで仕訳ができないといけないのか?もっと言うと、なんで簿記検定に受からないといけないのか・・・そこまで考えれば、もっと勉強に身が入るかもしれませんね。ぜひセットで考えてみてください。」
熊田 「ありがとうございます!気づきがありました。
ところで、検太郎先生はなぜ経営コンサルタントをしているんですか?」
検太郎  「美味い酒を飲んで美味いものを食べるためです(キリッ)。そのための稼ぎがあって業務上あちこち行くこともできます。以上(笑)」
熊田 「うわ。シンプル。」
検太郎  「なので今日もここのカレーを食べるのです(^^)」
熊田 「食の好みもシンプルなんですね。」