決算書は日常のビジネスの積み重ね

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努力は必ず報われる

-父上に勧められて簿記を勉強したそうですね。

私が大学生の頃は就職が厳しい時期で、入学式翌日の新入生ガイダンスで「卒業後の就職先はないものと思ってください。」という話があったほどです。そこで、「資格でも取ろうかな。」と家族に相談したところ、銀行員だった父から「公認会計士試験なら受かるかも」「受からなくても簿記の資格は取れるだろう」と言われ、入学翌月から資格学校に通いました。
父には、「簿記や会計はトレーニングの積み重ねが重要」とも言われました。それは本当にその通りだと思います。

私が簿記を教えた人の中には、初めは3級の問題もなかなか解けなかったのに、勉強を続けて1級に受かった人がいます。努力を積み重ねれば身につくのが、簿記の大きな特徴だと思います。

社員の意識が変わる

-規模の大小を問わず、企業に簿記の重要性を説いているのはなぜですか。

経営の役に立つからです。
車の構造を知らなくても運転はできるように、簿記を知らなくても決算書はある程度読むことができます。でも、車の構造を知っていたら、車の運転やメンテナンスがより良くできるし、イレギュラーな出来事にも迅速に対応できるようになりますよね。
簿記を知っていれば、決算書をより深く読むことができるようになり、それを経営に役立てることができるようになります。また、「会社の状況と照らし合わせて、売上が過大では?」と気づく能力も高まり、不正等を防ぐことにも繋がります。
何より、経営者が簿記を知っていると、取引先や銀行、税理士と話をする際の「勘所」がわかるようになります。

簿記を勉強すると決算書がより深く理解できるようになるのは、簿記が、日々の取引と決算書を結びつけているものだからです。貸借対照表に計上されている「建物」や「機械」は、単なる数値ではなく、実際に会社の中のどこかに存在しているはずのものが計上されています。
簿記を勉強すれば、それをより実感できるようになり、決算書に計上されている数字を具体的な経営や取引に落とし込むとどうなるか、という視点から考えることができるようになるわけです。

そういう点が具体的にイメージできるよう、私が研修の講師を務める時には、できるだけ現実味のある状況を設定するようにしています。
参加者に「工場にはどのような機械がありますか?」「経費にはどのようなものがありますか?」などと聞きながら進めます。すると、受講生は「○○の機械が3台ある」「人件費、原材料費、交通費・・・」などと発言していくうちに、「うちの会社のROA(総資産利益率)を改善するには、あの資産は不要だ」などと考えるようになり、意識の変化が見えてくるのです。

簿記の知識を活かすなら今がチャンス

自社の決算書を見て、売り上げや利益をあと○○円大きくしたかった、と思うことがあるでしょう。もちろん、後から数字を変えることはできません。でも、決算書が毎日のビジネスの積み重ねであることを理解できれば、個々の取引や、その基盤となる契約そのものを見直すことにつながります。

例えば、お客様に対して何かサービスを提供する場合、提供する内容が基本的に同じでも、年間契約なのか、案件ごとに契約して代金をいただくのかによって、決算書に集計される売上の金額が変わってくる可能性もあります。簿記を学べば、こうした発想が浮かんできて、サービスの提供方法そのものを見直すきっかけにもなります。減価償却にしても、社長が簿記をご存知であれば、決算書上で資産の金額がだんだん小さくなり、それが利益に影響を与えるということをご理解いただけますが、簿記をご存知ない方に説明するのは難しいですね。

また、簿記の知識があれば、一般的に就職に有利だと思います。中小企業や会計事務所で経理関係の人材ニーズが高まっていて、あちらこちらから「平林さん、経理ができる人、誰かいない?」とよく聞かれます。
これから日商簿記を勉強する方には、株式会社のことがよくわかる、2級までチャレンジすることをお勧めします。2級を勉強すれば、会社設立後に資本金を増やす増資など、株式会社ならではの基本的な取引が一通り出てくるので、仕事に対する意識も変わってきます。

気軽に専門家に相談を

-公認会計士をはじめ、企業経営に関わる専門家のネットワークづくりに力を入れていますね。

専門家に相談するのは敷居が高いと感じている方もいらっしゃいますが、ぜひ気軽にお声をかけて下さい。ちなみに、女性の専門家は相談しやすい、と言っていただくことがよくあります。実際、相談していただければ、すぐに解決することも多いので、専門家を上手に利用していただきたいですね。

Profile

平林 亮子Hirabayashi Ryoko
1975年、千葉県生まれ。1998年、お茶の水女子大学文教育学部地理学科卒。大学3年次に公認会計士試験に合格。太田昭和監査法人(現新日本有限責任監査法人)を経て、2000年、平林公認会計士事務所開設。2007年、女性士業プロジェクトSophia Netプロデュース。2010年、中小ベンチャー企業をサポートする士業ネットワーク、アールパートナーズ結成。
アールパートナーズの代表を勤めるかたわらレオン自動機株式会社(東証一部上場)の社外監査役をはじめ、数社にて役員としても活躍。著書は50冊を超える。