会計は経営と結び付けて学ぼう

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財産の増減を因果関係で示すのが簿記

-長年、大学で会計を教える中で、どのようなことをお話されていましたか。

会計情報は、事業の共通言語といわれます。会計情報は数多くある経営情報のひとつですが、あるユニーク性をもつ情報です。それは複式簿記にもとづく情報です。「複式簿記とは、ある経済主体の財産の変動を、増分と減分との因果関係により、認識・測定・伝達するシステム」です。非常にシンプルな情報システムであり、世の中が大きく変化しても基本的に変わらないしくみです。

「経済主体」には、個人商店や株式会社だけでなく、公益法人など非営利の法人も含まれます。最近では、地方自治体でも複式簿記の適用が求められています。「財産の変動」は、資産・負債・資本・収益・費用という、たった5つの取引要素で、複雑な経済主体の財産の変動を認識します。事業の全体を把握できる唯一の総合的な情報システムです。さらに財産の変動を単独では認識せず、必ず増分と減分との因果関係で認識するのが特徴です。たとえば、現金が100万円増加している場合、それだけでは認識しないで、なぜ、どのような理由で増加したのかを認識しながら情報として取り込むのです。

「メモノート」で企業・経済・社会を見る眼を養う

-大学ではユニークな授業をされていたと伺いました。

実は、私自身、学生時代は、学んだことと現実の社会との関係をよく実感できませんでした。そのため、自分が教える側になった時に、その関係を重視し、学生の学ぶ意欲を高めようと考えたのです。会計を経営とつなげて学ぶことで、会計や簿記の必要性、意義を感じ取ることができますし、複式簿記を学ぶと、企業・経済・社会を見る眼を養うことができます。

具体的には、授業で学生に「メモノート」の作成を課題に出しました。学生は、毎日、日本経済新聞を読み、気づいたことをメモします。記事を要約するだけでなく、気付いた点、特に、「取りあげた事柄の目的・理由・影響などを考えて今後の動向を予測」してコメントを書くのです。約100人の学生が、2週間に1回メモを提出し、私はすべて読んでコメントを付けて返しました。毎年のことですが、新学期が始まった頃は学生の評判が悪い(笑)。「面倒くさい」と言い、コメントの分量も少ないのです。ところが、回を重ねるうちにコメントの量が増えてきます。関心の対象が広がるのですね。私が考えていなかった視点に気付かされたりして、メモノートを読むのが楽しみでした。中には、企業の実務を体験するためにその企業でアルバイトをし、メモノートに取り込む学生もいました。

「メモノート」の作成を通じて、簿記や会計を、現実のビジネスとのつながりで学ぶことにより、その意義や重要性を肌で感じる契機になるわけです。学生には、メモノートで知り得た情報を少なくとも3人に話すように言いました。最初は話がまとまらなくても、2人目、3人目と話すうちに、説得力のある説明ができるようになります。自分自身の知識・ノーハウとして蓄積されるのです。作成したメモノートを持参して、就職活動に役立てた学生もいました。調べたことを家庭で話題にして、親が子供の成長を実感し、「学費を払った甲斐があった」と喜ばれた学生もいました。

簿記で会計と経営のつながりを実感できる

-簿記を学んでいる方にメッセージをお願いします。

メモノートを作ると、企業の増益理由を考える時など、会計の知識を頻繁に使うので、会計が経営とつながっていることを実感できます。その時、簿記を知っているかどうかで、見方が大きく違ってきます。特に、仕訳ができると、取りあげた事柄が、財産の増減にどのような影響を与えるかを感じることができるからです。そのことに気付いて、簿記を勉強するようになった学生も大勢います。

簿記は、どのような職種の人にとっても重要だ、と言われる理由もここにあります。営業の仕事であれば、「商品を売ればいい」のではなく、掛け売りであれば、債権を回収するまでが仕事です。簿記を学んでいれば、それに気付くことができます。何も高度な知識を学ばなくても、日商簿記3級程度の仕訳で十分です。でも、仕訳ができなければ、決算書の読み方を勉強しても、要点を突いた分析をすることはできないのです。

簿記を学ぶ時には、過去問題によるパターン学習ではなく、実際の企業の動向と結び付けて、「何のために学ぶのか」を明確にすることが大切です。社会人であれば、業種、職種にかかわらず、会計や簿記の重要性を感じる場面があります。その点で、2017年度から始まる「簿記検定試験 初級」は、仕訳を通じて、実際の取引が財産の変動にどのようにつながるかを学ぶことができるので、会計や簿記と経営のつながりを実感するためにちょうど良いと思います。簿記の知識はあなたにとって一生の財産となると確信しています。

Profile

片山 覺 Katayama Satoru
1942年、東京都生まれ。1965年、早稲田大学第一商学部卒。1986年、同大学商学部教授。2013年、同大学名誉教授。公認会計士試験第2次試験委員、不動産鑑定士試験委員、税理士試験委員、銀行業務検定試験委員などを歴任。著書に『非営利組織体の会計』(共著)など多数。『経営センスチェック』(ミロク情報サービス税経システム研究所)に寄稿中。