簿記は学生のうちに学ぼう

同級生と資格を目指した高校時代

-起業の準備として、高校生の時に簿記を学んだとお聞きしました。

私は小学生の頃から「起業しよう」と考え、大学1年生で会社(株式会社リブセンス)を立ち上げました。父方、母方の祖父がともに経営者だったので経営に興味を持ったことがきっかけでした。私が、「起業したい」と伝えた時、両親から、「会社を作るなら簿記を勉強したほうがいい」と言われ、簿記を学びました。母方の伯母は、会計事務所を開業し、母自身も簿記の資格を取って、その事務所で働いていたことがあったので、アドバイスしてくれたのでしょう。

高校は自由な校風で、クラスメートの多くは、自分がやりたいことを見つけて、そのための活動をしていました。私は友達3人と一緒に「将来役に立つだろうから日商簿記3級を取ろう」と独学で勉強し、3級、2級と取得しました。

簿記で大切なことは考え方

-起業してからは、簿記はどのような場面で役立っていますか。

最初の3年くらいは自ら経理事務を実践しました。会計ソフトを使って、自分で取引を仕訳し、決算書を作りました。1年目こそ税理士の方に手伝っていただきましたが、2年目からは基本的に自分で行いました。また、決算書類を見る時や、監査法人など会計の専門家と話す時には、「簿記で学んだ知識だ」と意識はしていませんが、実際にはやはりその知識が役立っていると思います。

簿記の知識が無くても、決算書は読めるでしょう。また、今後は会計の分野でも自動化が進むと思います。では、なぜ簿記を学ぶかと言えば、簿記の知識を記憶するためではなく、簿記の概念や考え方を学ぶことで「解像度」を上げるためです。決算書であれば、見方が変わり、より深く読めるようになります。例えば、「減価償却」という概念は、簿記を学んでいない人には理解しづらいと思います。もし、飲食店を経営していて、日々の商売で利益が出ていれば「黒字」と考えるかもしれません。でも、設備投資をしていれば、減価償却をしたうえで「黒字か赤字か」を判断する必要があります。また、「黒字倒産」という言葉にしても、簿記を学んでいなければ、「なぜ黒字の会社が倒産するんだろう?」と思う方が多いのではないでしょうか。簿記はビジネスの基礎です。勉強しておいて決して損はしません。起業を志す人もビジネスパーソンも、日商簿記3級を取ることをお勧めします。私たちの会社でも、社員に勉強するよう勧めています。

面接に効く「簿記を学びました」

-起業する場合、簿記を学ぶのは起業前、起業後、どちらがいいでしょうか。

起業前だと思います。会社を立ち上げた直後は、やるべきことが山ほどありますから。時間に余裕がある、高校生、大学生のうちに勉強しておくことをお勧めします。日商簿記3級の内容であれば、集中して勉強すれば数週間で身につけることも可能です。

私が高校から系列の大学に進む時に、希望する学部に入るための面接がありました。そこで私は「ビジネスをやりたい」「そのため高校在学中に簿記や株の取引きを勉強し、日商簿記2級を取得しました」と訴え、希望がかないました。「ビジネスに興味があります」「会社を興そうと思います」「だから簿記を勉強し資格を取りました」と言えば、面接をする側からすると、「この人は何をしたいのか」「そのためにどのような行動をしたのか」がわかりやすく伝わりますよね。これは就職の面接でも同じだと思います。

「学生は社会に出ていないので、お金の流れがわかりづらい」という意見もありますが、難しく考える必要はありません。文化祭で模擬店を開き、材料を仕入れて商品を販売するなど、身近なことに置き換えればいいんです。また、簿記を勉強する時には、教え方や教材によるところも大きいですね。私は何かを学ぶ時はなるべく独学で取り組むようにしていて、簿記を学んだ時には、個人商店を舞台にしたストーリー仕立てのテキストを使いました。わかりやすいテキストだったので2週間でマスターできました。

また、学生時代に簿記を学ぶ、という風潮をつくることも大切だと思います。大学の簿記の授業をより多くの学生が受講するよう促す施策や、きちんと学べば資格が取れるようなしくみがあったらいいですね。学生のうちに簿記を勉強し、記憶ではなく、考え方を身に付けることをお勧めします。

Profile

村上 太一 Murakami Taichi
1986年10月、東京都生まれ。2009年、早稲田大学政経学部卒業。2006年、同大学1年生の時に株式会社リブセンス社を設立し代表取締役社長に就任。同年、アルバイト求人サイト「ジョブセンス」を開始。2011年12月、東京証券取引所マザーズ市場に史上最年少の25歳で上場。2012年10月、東京証券取引所市場第一部に史上最年少の25歳で上場。