著者 : 鈴鹿大学講師 高見啓一

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検太郎は、顧問先の食品加工会社にて、社員の簿記検定対策講座を実施しているが、この日の講義終了後、開発部の松山くんと、経理係の高田さんが、検太郎を交えて会話をしていた。

自分のすべき勉強方法について尋ねる松山くん。「簡単なものをやればいいんだよ」と検太郎は言うが、2人は納得いかない様子。

松山 「先生、簡単な問題からやれっていうけど、それでいいんですか」
検太郎 「いいんです。」
松山 「え、でも俺だけ遅れている感じがしてちょっと不安ですよ。」
検太郎 「いいんです。」
高田 「先生、言い切りますね~。」
検太郎 「いきなり難しい問題は解けないだろ?」
松山 「たしかにそうだけど・・・。」
検太郎 「応用は基本のカタマリだからね。理系の松山くんが喜びそうな話をしようか。コンピュータの世界の話。」
高田 「コンピュータ?」
検太郎 「あの世界ってたしか『0』と『1』だけで出来ているんだよね。極論で言うとスイッチONとOFFしかない。これを使って色々な動きをしている。でしょ?松山くん。」
松山 「まぁ確かにそうですね。」
検太郎 「検太郎 あの0と1を駆使して文字データや画像データ、さらには複雑なプログラムを作っているんだから、すごいと思うんだ。プラモデルでいうと一つひとつのパーツが完璧に出来ていて、初めて完成品が出来るみたいな感覚かな。
松山  「なんか騙された気分だけど、それが基本の大切さ・・・ってことですよね。」
高田 「簿記の世界だと何をやったらいいですか?」
検太郎 「それは『仕訳』です。1に仕訳、2に仕訳・・・。」
高田 「みなさん、それおっしゃいますよね。私の先輩も言っていました。」
検太郎 「仕訳はプラモの基本パーツだと思うんだ。3級でやった試算表も精算表も、どんな難易度の高い決算書も、これを組み立てて作っている。逆に言えば、仕訳が滅茶苦茶だと、それを組み合わせたものも全て滅茶苦茶になる。だから、まずは仕訳なんだよ。」
松山 「なんか、先生がまともなこと言ってる(笑)」
検太郎 「受験テクニックとしても、3級だったら、1問目の仕訳と3問目の試算表、そして5問目の精算表または決算書で100点満点中約80点を占めるわけだから。仕訳は重要なパーツだよ。」
松山 「パーツかぁ。」
検太郎 「開発の仕事もなかなか成果が出なくて辛いと思うけど、ベースは松山くんが大学までに学んできた理系の知識だと思うよ。数学とかね。俺は『¥マーク』のつかない数字モノは大の苦手だから、物理とか全くダメだったけど、すごいと思うよ。」
検太郎 「そっか。基礎知識が大事だって、大学のときの教授も言ってたなぁ。」
高田 「すごいんだね。松山くんって。」
松山 「いや、俺そんな風に自分の過去の学習を振り返ったことなかったかも。」
検太郎 「まあ、理系の基礎知識を『簡単だ』なんて言えないけどね。ただ、数学の先生はみな言うよね。『小中学生の算数や数学に戻るのは大事だ』って。意外と基本的なところで勝負は決まるんだよ。」
高田 「そっか。私も基本をおろそかにしないようにしよっと。」
検太郎 「まともな講師だったら、『ここは基本だぞ!』ってポイントをちゃんと教えているはずなんだけど、できない人ほどそこを無視して、いきなり応用論点を追いかけたりする。」
松山 「あ・・・それおれかも」
高田 「私もやってる気がする・・・」
検太郎 「あとよく、『苦手分野をなくせ!』とも言うけど、それは勉強効率の面でもいいからだよ。『苦手と感じる問題=模試や本試験で出るけれども解けない問題』ってこと。だから嫌がらずに、苦手な仕訳は片づけておこう。」
松山 「はぁい・・・。」
高田 「私も、決算仕訳ちゃんとやります・・・。」
検太郎 「学習の段階から、簿記の仕訳ならぬ学習内容の『仕分け』が試されているともいえるね。先にやるべきこと、追いかけなくていいもの、をちゃんと区別しよう。今日はちょっと説教臭くなったな(笑)まぁ試験が近いし、このくらいは許してね。」