数字を押さえた経営で企業ミッションを実現

簿記を武器に企業診断

-ご自身が簿記を学ぶきっかけとなったのはなんですか。

中央大学商学部は簿記が有名でしたので、入学準備の一環として簿記を勉強しようと思ったことがきっかけです。日商簿記は2年次の6月に1級に合格し、それからは公認会計士試験に向けた勉強を行っていました。
当時は公認会計士試験二次試験に合格すると、まずは監査法人に勤めるのが一般的でしたが、私は企業経営者と直接やり取りをしたいと思っておりましたので、個人の会計士事務所を選びました。そこで所長の指導のもと、経営者の方々と直接お話ができた経験が今に生きています。
20年余り会計士事務所で勤めた後に、父が社長を務めておりましたビクセンに入社し、その後私も経営者となりました。

経営に大切なのは「数字を読む感覚」

-経営者になられた今は会計についてどのようにお考えですか。nii-mid

私達の会社は、天体望遠鏡や双眼鏡などの総合光学機器メーカーです。企業規模は中小企業ですが、原材料の輸入や商品の輸出、自社ブランドの宣伝広告や、マーケティングなど業務が多岐にわたります。このため、毎月各部門から正確な数字が出てくるよう指導を徹底しています。
簿記の理論を理解できていることは、出てきた数字と経営の現場を見比べ、勘所を押さえて会社を理解するのに役立ちます。

-原価計算にも力を入れているとお伺いしました。

自社工場においては、コスト発生単位である「コストセンター」に目を配ることを徹底しています。工場では、原価計算を通じ「コストセンター」をきちんと捉えているので、棚卸し誤差は、1億円の材料に対して5000円未満と1%を切っています。

徹底して無駄をなくすことを心がけることは、工場内の整理整頓にも繋がっています。「ムダを省く」という意識だけでなく、コストの削減にも結びつくという姿勢で、従業員も積極的に取り組んでくれています。

-人気アニメやプロ野球球団との様々なコラボ、「宙ガール(そらがーる)※」の提唱なども話題ですね。

moo-mid2会計士時代は数字を交えながら経営者の方の視点とは別の視点からアドバイスをすることを心がけていました。経営者となった今では、「専門家ではない目線で」経営を見るようにしています。

私達の企業ミッションは「自然科学応援企業」です。機器を売ることが目的ではなく、天体望遠鏡をはじめとした光学機器を通じて、自然と触れ合う人を増やすお手伝いをしたいと思っています。大手企業のような大掛かりなプロモーションはできませんので、既成概念にとらわれず、流行に対して常にアンテナを張ることが重要です。今後も様々なコラボレーションなどを通じて、「星を見せる企業」というビジョンをより多くの人々に伝えていけるようにしたいですね。

宙ガールとは…星空に興味がある、積極的に天文情報に触れたい女性たちの総称として、株式会社ビクセンが提唱

簿記で生きた数字のポイントを掴む感覚を養おう

-簿記会計を学ぶ方へのメッセージをお願いします。

簿記とは記録方法であり、その理論を理解すれば財務諸表などの生きた数字を正確に読む力がつきます。企業として利益を出すためには、財務諸表を読めることは必須です。

簿記や会計は、知識を暗記するだけでなく、得た知識を基に考えることで、数字への感覚を養うことが重要です。私も大学4年間繰り返して勉強したことで会計の「知識」だけでなく、数字への「感覚」が養われました。こうした感覚を養うには時間がかりますが、簿記初級や原価計算初級など、商工会議所で入り口の敷居が低い試験が創設され、簿記と接触する機会が増えることは良いことだと思います。

現在はコンピュータの技術が発達し、瞬時に財務諸表が出来上がるようになりましたが、財務諸表の数字と、企業現場の実態を結びつける感覚を持つことが重要なことは変わりありません。会社とは、物事を生み出すクリエイティブな側面がありますが、そのほとんどは数字で表現できます。それを実感できるようになれば、簿記や会計がもっと面白くなると思います。

Profile

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新妻 和重Niitsuma Kazushige
1966年、埼玉県生まれ。1989年、中央大学商学部卒。同年公認会計士事務所に入社。2006年株式会社ビクセン社外取締役就任。2007年同社代表取締役社長に就任。