簿記は世界の共通語

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剣道をきっかけに日本留学

-なぜ日本で会計を教えることになったのですか。

母が会計の仕事をしていたことや、祖父から公認会計士になるよう勧められたことがきっかけで、大学では会計を学びました。10歳の頃に剣道を始め、日本語を話せたので、教授から日本の会計を研究するようアドバイスを受け、博士課程の時に日本に留学しました。大学院で勉強した後はフランスに帰国するつもりでしたが、日本の大学で働く機会を得て、今は「のれん会計」や会計史を研究するとともに、英語で会計を教えています。

大学に入学した時に、必修科目として会計の授業があり、そこで初めて簿記を学びました。フランスの会計教育は、日本とは対照的に理論より実務を重視していて、簿記や税制を中心に学びます。3年生になると、所属する学科が決まります。会計学科に進むには難しい試験を通らないといけないのですが、私は公認会計士を目指していたので会計学科に進み、さらに大学院修士課程で学びました。フランスの公認会計士は、会計だけではなく法律など幅広い知識を求められるので、修士課程に進学しないと試験を受けられないのです。そして、ついに試験に合格したのですが、会計士ではなく研究者の道を選びました。父をはじめ大学教員が多い家系に育ったことが影響したのだと思います。

会計を学ぶなら簿記は不可欠

-簿記は「世界の共通語」という考え方について、どう思われますか。

会計を勉強するにしても、企業の経営を分析するにしても、簿記の概念なしには理解できません。私が授業で教えている財務会計も、前提として簿記を学んでおく必要があります。例えば、取引が行われた時点で収益や費用を計上する「発生主義」の考え方は、簿記を学んでいない学生には理解するのが難しいと思います。私の授業には、様々な学部の学生や留学生など、簿記を学んでこなかった人たちも参加しています。そのため、財務会計のテキストとは別に教材を用意して、簿記の勉強をさせています。そうしないと、財務分析を学ぶことができないのです。

また、国や企業によって損益計算書の勘定科目が異なることがあります。見たことのない勘定科目が出てきた時に、もし簿記の知識がないと、それが損益計算書のどこに入るかを推測することすらできません。また、商品について、前期からの繰越分と当期の仕入の合計から、在庫を差し引いたものが売上原価になることや、引当金のように、「会計上の費用には支出でないものが含まれる」ことなどは理解ができません。

簿記は「世界の共通語」です。簿記を日本語で学んでも、英語で学んでも、内容はよく似ています。国によって法制度などが異なるので、すべてが同じというわけではありませんが、考え方は一緒です。そのため、日本で簿記を勉強した人は、会計関連の英語の授業を理解しやすくなります。

簿記を学ぶ機会が多いフランス

-フランスでは簿記や会計の教育はどのように行われているのですか。

進路によって、学ぶ時期は異なります。商業、工業、農業などの高校に進学すると、卒業後は就職するのが一般的で、高校在学中に、経営学の授業で商業簿記や原価計算、税制などを学びます。また、普通高校の場合は、卒業後、大学に進み、そこで簿記を学ぶのが一般的です。文学など一部の学部を除いて、経営、経済、法律、工学、化学など、大部分の学部の学生が、商業簿記や原価計算など、それぞれの専攻と関係する簿記の知識を学びます。

さまざまな仕事で簿記は役立つ

-簿記や会計を学んでいる人たちにメッセージをお願いします。

簿記は、社会に出た時に、会計の仕事であればもちろん、それ以外の仕事でも役に立ちます。フランス企業の法務部門に勤めていた私の友人は、顧客の財務諸表を分析することになり、会計を学び直しました。また、私がMBA(経営学修士)のコースで教えていている学生の中には、職業がデザイナーやエンジニアで、原価計算が必要なので簿記を勉強している、という人がいます。将来、自分がどのような仕事につくかわからないのであれば、学生時代の専攻にかかわらず、簿記は勉強しておいたほうがいいと思います。

Profile

gal-profガルシア・クレマンス Clemence Garcia
2002年、フランス・パリ第1パンテオンソルボンヌ大学経済学部卒業。2003年、フランス・パリドフィーヌ大学大学院修士課程修了(会計学修士号取得)。同年、同大学助手。2004年、フランス外務省奨学生として京都大学大学院にて留学。2006年、明治学院大学経済学部専任講師。2010年、パリドフィーヌ大学大学院博士課程修了(経営科学博士号取得)。2015年、学習院大学国際社会学部准教授。専門領域:多国籍企業の会計、M&Aの会計。日本の会計史における珠算の役割についても研究中。