世界一わかりやすい簿記講座をつくる

公認会計士とお笑いの両立を目指す

-「NHK高校講座簿記」では、「東大卒の公認会計士にしてお笑い芸人」と紹介されています。どういった経緯でそのような肩書になったのですか。

自分は大学入学以前から「サラリーマンに向いていない」と感じており、親にもそう言われていました(笑)。そこで、将来特に何がやりたいか決まっていなかった大学1年生のとき、軽い気持ちで公認会計士の講座を受けてみたんです。ところが、公認会計士は日本でも3本の指に入るともいわれる難関国家試験。「簿記の壁」に阻まれ、撤退を余儀なくされました。

その一方で、人を楽しませることにも興味があったので、お笑いをやってみたいという思いもありました。ただ、当時は東大からお笑いを目指すなんてありえない時代。また「自分には才能もないだろう」と漫然と日々をすごし、気が付くと入学から7年も経っていました。東大卒業後1年間は、お客様に商品を見せながら特徴を説明して販売する、プロの実演販売士としてフリーター生活を送りながらお笑いの世界を目指していたのですが、気力・体力的にとても続けていけそうになかった。このとき「今度こそ本気で会計士にチャレンジし、合格してもまだお笑いが続けたければ、そのとき再度お笑いにチャレンジしよう」と思ったのです。

それから必死で勉強して、無事、公認会計士試験に合格。合格から1年ほどして仕事にも慣れてきたころ、お笑い学校の門をたたき、お笑いの世界に飛び込んだのです。

苦手だったからこそ指導者に

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-「簿記の壁」に阻まれた経験をお持ちなのに、何故、あえて簿記の指導者になろうと思ったのですか。

会計士受験生時代、特に力を入れたのが、苦手だった簿記です。毎日、最低4時間は勉強するようにしていました。初めの頃は、「左側の数字と右側の数字が必ず一致する」と言われても、片方の数字ばかり見て、「左右のバランス」という感覚がピンときませんでした。でも、その感覚がわかってからは、「楽しい」と実感できるようになったのです。

同時に、「簿記の指導者になりたい」と思うようになりました。簿記のセンスがある人は、苦もなく問題を解いてしまいます。でも、簿記が得意な人は、わからない人が「なぜわからないのか」がピンときません。その点、私は、簿記が苦手だったので、「どこでつまずくか」「その時どう手を差し延べるか」を意識して教えられると考えたからです。

若いうちに学んでおこう

-お仕事では簿記はどのように役立っていますか。

今の私の人生は、「簿記の知識がすべての土台になっている」と言ってもいいくらいです。大学middle-wataで公認会計士や税理士を目指す人に簿記を教えるとともに、証券アナリストの仕事もしています。

アナリストにもいろいろあって、私は財務情報の成り立ちを分析しています。財務諸表を見て、その背景で、簿記の処理がどのように行われているかを読み解くのです。例えば、資産として計上されているものが、もし費用として計上されていたら、どのような財務諸表になっていたか、など、「別の可能性」を予想して、お客様に提供します。こうすることで、より深い考察ができると自負しています。それができるのも、「財務諸表をつくる」という簿記の根本を学んだからに他なりません。

「簿記を知らなくても貸借対照表や損益計算書を読める」と言う人がいますが、財務諸表は氷山の一角に過ぎません。大事なことは、その下に隠れている情報について考察ができるかどうかです。例えば、2つの住宅があって、どちらかを選ぶとします。この時、外見だけではなく、屋台骨がしっかりしていて耐震性に優れているか、という情報も重要ですよね。財務諸表を読むとき、この屋台骨にあたるのが簿記や会計なのです。

ですから、経営者の方にはぜひ簿記学んでいただきたい。でも、経済の最前線で戦っている経営トップが勉強時間を確保するのは至難の業です。だからこそ、学生のうちに簿記を学んで欲しいのです。「簿記は世界共通の言語」と言われるように、学んだ知識は、ビジネスコミュニケーションのツールとして、必ずどこかで役に立つはずです。

将来、必ず役に立つ

-「高校講座」の見どころを教えてください。

簿記は、あらゆる経済活動の根底にある、情報処理のしくみです。では、人生の「いつ」「どこで」必要になるかというと、会社員なら、ある日、突然、経理部門に配属されるかもしれません。非営利の法人であっても、お金を管理する部門は必ずありますから、同じことです。あるいは、会社を辞めて独立開業する時にも必要です。そのような時に、「『簿記はとっつきにくくて困る』ということがないよう、高校生のうちに備えておきましょう」というのが、この番組が目指していることです。

そのため、「NHK高校講座簿記」のプロデューサー、ディレクター、出演者他、関係するみんなで、「世界で一番わかりやすい簿記講座」を目指して頑張っています。社会人経験のない高校生にとって、簿記を「とっつきやすく」して、少しでも知識を身に付け、将来に役立ててもらえればと思います。簿記を学ぶことで将来の選択肢が広がります。私は簿記に救われました。ですから、自信を持って、簿記をお勧めします。必ず、人生のどこかで役に立ちますから、「簿記の壁」にめげずに、前向きに勉強していただきたいと思います。

【NHK高校講座簿記ホームページ(放送日、学習内容、既に放送された番組の動画などを掲載】

Profile

渡部 崇文 Watabe Takafumi
1974年、千葉県生まれ。東京大学経済学部卒業。公認会計士・税理士・証券アナリスト。日商簿記1級。TAC(株)の専任講師として東京経済大学、明治大学、横浜国立大学、法政大学等で教えるかたわら、在外投資会社のリサーチアナリストとして 海外の企業や国際金融機関などの財務分析を担当。また、会計や税務をテーマとしたネタでお笑い活動を行い、一人芸のお笑い賞レース「R-1ぐらんぷり」に毎年参戦している。2016年度、NHK高校講座簿記講師。