原作:髙見啓一(鈴鹿大学准教授)
イラスト:高木

<あらすじ>

ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。

材料費、労務費、経費、そしてそれぞれの製造間接費まで、製造原価を構成する全てのコストを把握できたZAIMの面々であった。

戦闘員A 「これで全ての原価が出ました。あとは製造間接費の配賦を行えば、モンスターのコストを出すことができます。」
統領 「うむ。ようやくじゃな。各モンスター1体あたりのコストを、きちんと把握せんことには戦略性のある生産計画が立てられんからな。」
戦闘員B 「まずは・・・ゴーレムからっすか?以前計算しましたもんね。(第4話参照)」
統領 「うむ。こいつは1体1体が特注品だから分かりやすい。「個別原価計算」じゃ。」
説明しよう。個別原価計算とは、顧客の注文に応じて特定の製品を個別に注文する製造業(オーダーメイド)において使われる原価計算法である。注文ごとの「製造指図書」に沿って生産が行われる。
スケルトン 「あっしは?」
戦闘員A 「スケルトンも、10体単位でロット注文が来るので、個別原価計算ですね。」
スライム 「ぷるぷる・・・。僕たちも~?」
統領 「お前たちに個別原価計算はとても無理じゃ!1ヶ月の生産で何千個、何万個と制作するからな。お前たちは『総合原価計算』でざっくりと1ヶ月分のコストを出して、最終的に作った個数で割り算というわけじゃ。」
説明しよう。総合原価計算とは同じ規格の製品を連続して大量見込生産を行う製造業において使われる原価計算法である。1ヶ月間に要した製造原価をまとめて集計し、1ヶ月間で完成した製品の生産量で割ることで1個あたりの単位原価が計算される。
戦闘員C 「ザコキャラだもんな。」
スライム 「大量生産品と呼んで欲しいぷる~。」
戦闘員B 「こういう流れで確認していくんっすね・・・統領、あれはどうしましょうか?」

-作りかけ(建築途中?)のゴーレムと、整形・塗装前のスライムを指さす戦闘員Bであった。

統領 「うむ。月末の作りかけの品は『仕掛品』として、翌月に繰り越すんじゃ。完成した月に初めて製造原価となる。個数に応じて、コストを完成品と仕掛品に振り分けるようにせよ。仕掛品に含まれるコストは製造原価には含めないこと。よいな!」
戦闘員A 「材料の『棚卸計算法』と似てますね。」
戦闘員B 「あれも、買ったときではなく、使ったときに材料費とするんでしたね。」
戦闘員C 「モンスター用のカボチャをカレーにしちゃったときの話か。(第6話参照)」
統領 「そう。完成まで至って『製造原価』となる。さらに言うと出荷した分しか『売上原価』にはならん。このあたりは、また次の回以降で説明するとしよう。」

-統領のレクチャーを受け、電卓をポチポチと叩く戦闘員A・・・。

戦闘員A 「製造原価の計算が終わりました。スライムの原価は1個80円です。」
戦闘員C 「まあ、そんなもんだろうな。ザコキャラくん。」
統領 「う~ん・・・以前は1個60円くらいで出来たそうじゃが。原価高かのう。」
戦闘員A 「ポチポチポチ・・・ゾンビの原価は1体50万円です。」
戦闘員B 「けっこう高いな・・・外注費がかかってたもんな・・・(第10話参照)。」
戦闘員A 「そして、ゴーレムの原価は以前にも計算したとおり、約1000万円です。」
統領 「モンスターによって、こんなに価格差があるのか・・・。ゴーレムは中ボスクラスだから当然といえば当然だな。予想どおりだ。」

-ポチポチ・・・ポチ・・・ポチ??? ここで戦闘員Aの電卓の手が止まる。

統領 「どうした?戦闘員A」
戦闘員A 「戦闘員Cを模した戦闘員ロボット『CCボーイズ』ですが・・・1体あたり2000万円かかっています。」
統領 「ちょっと待て!ゴーレムよりも高いじゃないか。戦闘員Cっ!」
戦闘員C 「俺は知らねえよ~。前に酔っ払った勢いで『汎用人型兵器を作る!』とかなんとか言って、むちゃくちゃ高い材料費や外注費を使ったの統領じゃん。・・・ってかもっといい男に作ってくれよ~。」
統領 「2000万円もかけたんじゃろ?勇者との戦績は??それが重要じゃ!」
戦闘員B 「どうやら、勇者を見かけると戦わずに逃げているみたいで・・・。」
統領 「中止中止!ただちに生産中止じゃ!誰じゃ~中身までコイツに似せたのは!」
戦闘員C 「俺が言うのもなんだけど、コストがもったいねえ~。」
スライム 「ボクたちよりもザコキャラ~♪」

次回予告

モンスターの製造原価を明らかにできたZAIM戦闘員たち。
悪の組織の「スポンサー」に向けての説明責任を果たすべく、決算書の作成を始める統領であった。
次回「悪の組織のガバナンス」お楽しみに!