企業年金総合プランナー(DCプランナー)メールマガジン第108号(2007.5.15)
D分野(ライフプランニングとリタイアメントプランニング):企業型年金加入者のライフプランニング
今回は、企業型年金加入者のライフプランニングに関するD分野からの問題です。係数利用の計算とB分野の内容との複合問題で、退職金制度から企業型年金への移行、企業型年金加入者の転職、前払い退職金といったテーマから出題されています。
《問1》の「解答・解説」
計算を始める前に、まず問題文を詳しく分析してみましょう。問題の枠組みとしては、「35歳時点をスタートとし、25年間の運用・拠出を経て、60歳時点の資産残高を求める」と大きく捉えることができます。
35歳から当初25年間は、移換金と毎年の企業型年金拠出額が相互に絡んでいます。ここが第一関門ですが、問題文をよく読むと、「(移換開始から60歳まで毎月の拠出額とは別枠で運用するものとする)」とあります。これは、大きなヒントです。次のような方針で解答を進めます。
(1)移換金
5年間の分割移換期間は、「毎年40万円を年1%、5年間拠出する」という問題に置き換えることができます。従って、5年後の資産残高を求めるためには、年金終価係数を利用します。残りの20年間は、年1%の運用のみ行うと考えて、終価係数を利用します。これを式で表すと、次のようになります。
400,000円×5.1520(1%、5年の年金終価係数)×1.2202(1%、20年の終価係数)
=2,514,588.16円(注:問題指示により、ここでは四捨五入しません)
(2)企業型年金拠出額
毎年12万円を年2%、25年間拠出した場合の問題と考え、年金終価係数を利用して資産残高を求めます。計算式は、次のとおりです。
120,000円×32.6709(2%、25年の年金終価係数)=3,920,508円(注:同上)
従って、60歳時点の残高は、次のようになります。
60歳時点の残高
=2,514,588.16円+3,920,508円=6,435,096.16円
=644万円(1万円未満を四捨五入)
(答)644万円
《問2》の「解答・解説」
初めに、企業型年金加入者が企業型年金の導入企業に転職した場合の移換手続きについて、大まかな流れをおさらいしておきましょう。
【移換の申出】
加入者が自ら転職先企業を経由して、移換先企業型年金の記録関連運営管理機関宛に個人別管理資産移換依頼書を提出します。
【移換の指図】
移換先記録関連運営管理機関は、移換元記録関連運営管理機関に移換指図を行います。
【現金精算】
移換元記録関連運営管理機関の指示に基づき、移換元資産管理機関は、当該加入者がこれまで利用してきた運用商品を一旦解約(現金精算)したうえで、移換先資産管理機関に送金します。この途上で、解約に伴うコストが生じ、その結果、元本割れが発生する可能性があります。
加入者は、資産移換後、改めて運用商品を購入することになります。移換先の運用商品ラインアップによっては、これまで購入していた商品を選択できないケースも十分考えられます。運用商品の選択肢だけでなく、掛金の算定方法の違い等によって、拠出額が毎月変わる可能性もあることに注意する必要があります。
(解答例)
・移換手続きを加入者自ら行わなければならない。
・これまで利用してきた運用商品を解約して、移換しなければならない可能性がある。
・解約手数料が発生し、元本割れの可能性がある。
・転職先の運用商品の選択肢は、これまでと異なる可能性がある。
・毎月の拠出額は、これまでと異なる可能性がある。 など
《問3》の「解答・解説」
退職金相当額の全部または一部を在職中に給与や賞与に上乗せして前払いする、いわゆる「前払い退職金制度」の採用が普及しています。最近では、単独での新規導入より、むしろ退職金制度等の見直しによって新たに導入する制度の選択肢のひとつとして採用されるケースが顕著です。企業にとっては、退職給付債務を縮減できるポイント制などの成果主義型賃金体系に馴染みやすい等のメリットがある一方、優秀な人材を引き止める効果が失われる、社会保険料会社負担分(いわゆる法定福利費)が増加する等の問題点を勘案する必要があります。
この問題では、前払い退職金に対する従業員のメリットとデメリットが問われています。従業員のメリットとしては、本来は退職時点で受け取るはずの退職金相当額を毎月の給与や賞与に合算してもらえるため、退職以前のライフイベント資金に回せることがまず挙げられるでしょう。確定拠出年金による運用にみられる運用リスクや運用コストがかからない点もメリットといえます。
一方、前払い退職金は、所得税法上の給与所得とされるため、所得税負担が増加します。また、社会保険料(健康保険および厚生年金保険)の算定基礎となる報酬または賞与に、労働保険料の算定基礎となる賃金総額に算入されるため、当該保険料の負担額が増加することになります。さらに、将来の老後資金をすべて自分で準備しなければならないことに留意する必要があります。以上をまとめると、解答例のとおりです。
(解答例)下記等から1つずつ
<前払い退職金のメリット>
・年金だけでなく、教育資金や住宅資金などにも使える。
・運用リスクや運用コストがかからない。 など
<前払い退職金のデメリット>
・給与として社会保険料や税金が差し引かれてしまう。
・将来の老後資金をすべて自分で準備しなければならない。など
応用編では、今後も、今回取り上げられたような分野の横断的な理解を問う問題が出題されるでしょう。知識のインプットは勿論必要ですが、それだけで十分とはいえません。例えば、今回の問題が個人型年金加入者の場合だとどのような問題になり、どのように回答すべきか、転職ではなくて脱退手続きであればどうなるか、というように切り口を変えてみる等、アウトプット型の学習も取り入れてみると良いでしょう。