平成16年度後期の講評と今後の学習指針
平成16年12月7日
10月に実施された平成16年度1級(第20回)と後期2級(第34回)、ならびに前期(上半期)の3級について、それぞれの結果を振り返りながら「実技科目」を中心に、今後の出題の方向や学習の仕方などについて考えてみます。
なお、筆記2科目の平均点は、すべての級で科目合格点(70点)を大きく上回っていて、受験された皆さんの努力のあとがうかがえました。筆記科目が難しくなったという見方はあたらないでしょう。
第20回1級の合格率は14.8%が示され、前年度に比べて約3ポイント高い結果でした。第34回2級は31.3%、また上半期の3級は約63%となっています。
1級
ビジネス文書科目の課題は「稟議書の作成」でした。稟議書(りんぎしょ)とは、官庁や会社などで会議を開かずに文案を関係者に回覧して承認を求めるための書類のこと。ここに記される項目名やその順序、表記法などは、いずれの組織でもおおよそ決まっていて、組織内の人であればいつ、だれが読んでも間違いなく理解できる様式(フォーマット)になっています。
試験の問題は、ビジネス現場で通用する「稟議書様式(表)の作成」と「稟議書に記載される文案(ビジネス文章表現)の記述」の2題でした。ビジネス社会が評価する「日商文書技能1級取得者」ともなれば、文や文章を単に羅列するだけではすみません。企業などで使用する定型文書様式を設計したり、より使いやすいものに改良したりする技能も求められます。過去問題のテーマにもなった苦情回答書や提案趣意書のように、非定型的なビジネス表現を自ら考えて作り上げるという文章記述能力が強く求められることは述べるまでもないでしょう。
今回の解答で最も目立ったミスは、問題文と指示文のとおりできていなかったことです。具体的には「A4判用紙縦1ページに横書きの書式で」と、わざわざ注意書きまでしてあるにもかかわらず横組みで出力した、あるいは、問題文に「表の書体はゴシック体を使用する」、稟議書内に記す文字は「表の項目名と区別するため『明朝体』を使用する」とあるのに、異なる書体にしたことなどです。両方とも、取り組む前に問題や指示をよく読んで確認さえすれば、簡単に防げるミスです。
ビジネスの現場で、顧客の依頼や上司の指示を無視したり逆らったりすれば、ペナルティーだけでなくマイナスの評価が加えられることさえあります。これと同じで、3級で許されたことでも、1級ともなれば決して容赦されないということを認識しておく必要もあります。逆な見方をすれば、「だからこそ、1級技能なのだ」ともいえるでしょう。
文章の記述課題では、「決裁(決済)」「起案(議案)」「回議(会議)」「職位(職種)」〔( )が誤字〕といったビジネス用語の変換ミスや読み違えが多く見受けられました。これらはビジネスにおける日常語ともいえるもので、誤字は絶対に許されません。また、「事前入力データ」に記載された情報を適切な「ビジネス表現に要約」する課題では、事前入力データの文章をただコピーしただけという解答も少なくなく、これで1級に合格することはできません。
他方、制限時間を有効に使うという面では、多くの解答が最後の課題、すなわち「決裁の要・不要」のマークまで完成していたことを考えると、「時間管理が巧みだった」ことがうかがえました。かつて本稿で述べた「管理サイクル(Plan-Do−check-Action)」の理解が高まりつつあることを示すものといえるでしょう。これから挑戦しようと考えている人は、この中のCheck(点検・照合)必要性をご念頭におかれるとよいでしょう。
今回のビジネス文書科目の平均点は、昨年度の実績を5点も上回りました。問題のレベルは常にほぼ一定ですから、受験された皆さんの技能レベルが確実に高まっている証(あかし)です。残念ながら不合格になった皆さんの解答は、「これではビジネスで通じない。しかし確実にあと一歩だ」というのが率直な感想です。ビジネス文書の様式や文章、用語の使い方などの学習を重点的に進めれば、合格に近づけるはずです。文字どおり「あと一歩」の努力を期待します。
入力科目は、ご承知のとおり10分間に800字を正しく入力する課題(正答792字)です。しかし、本稿で繰り返し述べているように、他の3科目に合格しながらこの科目がクリアできずに「不合格」になるという、きわめて残念な受験者が年々増加しています。前回の正答入力文字数の平均が約742字であったのに対し、今回は10字以上もマイナスの約731字となっていることが、これの裏付けています。
正確で速く入力する技能は、タッチタイピングの習得が必須。この技能を習得することは、速くて効率的というだけでなく、腕や肩、腰などへの負担を軽減することができ健康の面からも非常に大切です。若い頃には症状がなくても、歳を経るとともに少しずつ身体に異変が生じます。これから先も長くキーボードと付き合わなくてはならない現実を考えれば、タッチタイピングの早急な習得を強くお勧めします。そして、これこそが入力科目に合格する早道です。
前述したように、筆記2科目の平均点は、若干の低下傾向が見られるものの合格点を上回っています。ただし、最近の顕著な傾向は、高得点グループと低得点グループの差が大きくなり二極化が強まっていることです。具体的には、得点層が80点前後と40点前後に集中していて、平均点は変わらないものの合格と不合格がはっきりしてきたということです。
この傾向は2級と3級にも見られます。得点が低かった受験者の皆さんには、残念ながら「勉強不足だった」といわざるをえません。参考書や過去の問題を活用するなど、学習の方法を考え直すことが大切でしょう。参考書は、日本商工会議所の監修で発行された「実践 日本語文書ゼミナール」が役立ちます。
2級
ビジネス文書科目の課題は、2ページの「パンフレット」を作成するというものでした。問題文の指示によって書式を設定したりレイアウト(体裁)を整えたりすることが最初に行う作業です。この中に「事前入力データ」に記されている情報をはめ込んでゆくわけですが、ここではまず、罫線(けいせん)処理と図形を扱う技能が求められました。近年はこれを処理するためのソフトウェア機能が向上していますから難しい作業ではありませんが、機能の使い方を知らなかったり勉強不足だったりという人には、つらい課題だったように思われます。
さまざまな図形を作成し編集(変形・大きさ調整・重ね合わせ・修飾など)して、これを適当な位置に配置する、あるいはこの中に文字列を挿入するといった一連の作業を効率的に行う技術は、近年のビジネスでは必須のもの。今回のようなパンフレットにとどまらず、プレゼンテーション(提案)や販売促進のための文書などを作成するうえでは、必ずといってもいいほど活用される技能です。ビジネスで活躍するためにも、十分に習得しておくべきです。
文章表記の課題は、適切な文章の選択と挿入、文意による段落分け、体言止めと箇条書きなどでした。全体的によく作成されていましたし、とりわけ体言止めと箇条書きは、多くの受験者がほぼ完璧に処理できていました。これまで出題された文末の整理や箇条書きをしっかり学習した成果と考えられます。また文章を分析して「見出し」を抽出する課題も、よくできていました。これらはビジネス実務の「基本中の基本の技能」です。これからも、これをさらに高める努力を期待します。
他方、表組みの指示にあった「並べ替え」や「文字列の選択・整理」は完成度が低く、やや大きな表の編集には問題点を残しています。また、制限時間の関係からか、最後の指示であった枠作成とヘッダーの未処理が目に付きました。本稿で何度も述べているように、時間の配分には十分な配慮が必要です。
2級は、ビジネス文書全般にわたる作成技能が求められます。最近のビジネス実務では、「文章表記」に加えて「図や表・イラストなどによる表現」が多用されるようになりました。例えば「プレゼンテーション資料」などでは、プレゼンテーション・ソフトウェアを使って、一目で理解してもらえるように工夫することが一般的です。従来の文書作成ソフト、表計算ソフトとともに、「プレゼンソフト活用法」の習得を強くお勧めしておきます。この種の問題が近いうちに出題される可能性は高いといえるかもしれません。
入力科目と筆記2科目は、2級、3級においても前述1級の項で述べたことと同じです。
3級(前期)
3級ビジネス文書科目で出題される「テーマ」は、簡単な社外文書と一般的な社内文書の作成です。つまり、ビジネス文書の基本的な要素が課題です。
今期の課題のポイントは、文章処理・表作成・図形作成の3つでした。
まず、文章処理は一般的な文章記述とビジネス用語の選択。ビジネス実務の経験があればさして難しいものではありませんが、経験がない人にとっては悩ましい問題も少なくないと思われます。したがって、この対策は多くのビジネス文書に接し、そこに使われている文章表現や用語、文書様式に慣れることが大切な心がけです。
表作成における表組みと表内文字列の作成は、数年前に比べると難易度が高くなってきました。例えば、表は単純に縦横で組むだけでなく、体裁を変更したり中の罫線を削除したりする指示が出されるようになりました。最近は、表内文字列の変更や追加、削除といった表内編集の課題が、必ずといっていいほど出題されています。これからは、「表内の行・列・セルの編集」をはじめ、「表内文字列の書式や体裁の変更」「表内の縦書き・横書き」「表内文字列のセンタリング」「セルの強調や修飾」など、表を編集するための技術の習得に力を入れることが重要です。
図形作成の課題は、図形作成機能を活用して「簡単な図」を作成するものです。罫線処理で作成することもできますが、ソフトウェアに備えられた機能を効率的に活用するという観点からは、図形作成の機能を習得したほうがはるかに有利です。今後はこの出題傾向が強まると考えられますから、十分な対策が必要といえるでしょう。
合格率の推移を見てもわかるととおり、3級を受験する皆さんの技能レベルは、4級が廃止されて以降、確実に上昇しています。ビジネス文書の基礎である3級を目指すことは、ビジネス実務の習得に近づくことを意味します。受験して合格を目指す皆さん、そして指導者の皆さんには、常に高い目標をかかげて日々努力を重ねていただきますようお願いをしておきます。
本年度後期の3級を受験された皆さん、そしてこれから受験する皆さんには、一日も早く合格通知が届くことをお祈りします。
次回の講評は、今年度が終了した後の4月ごろです。