平成14年度の全体講評と今後の学習の指針

 ワープロソフトを用いたパソコン等によるビジネス文書の作成が一般的になっている現在、ビジネスの現場では、ソフトの操作方法や操作手順を知っているだけでは不十分です。具体的にどのように業務に活用し、課題を解決するかといった能力を、生きた知識、スキルとして持っていなければなりません。

 日本語文書処理技能検定試験では、4つの試験科目により、これらの能力を習得する要素がうまく取り入れられています。検定試験の学習を通じて、ビジネス実務に直結した知識や技能を身につけていただきたくことを期待しております。

 今回は、昨年度(平成14年度)に実施された日商文書技能検定試験の全級(3級〜1級)の解答状況を総括し、始まったばかりの今年度検定試験の受験対策を考えてみることにします。これらを参考にして、受験される皆様の合格をお祈り申し上げます。

(1)日本語科目(全級)
(2)常識科目(全級)
(3)入力科目(全級)
(4)ビジネス文書科目
1)3級
2)2級(後期)
3)1級

(1)日本語科目(全級)

 従来から、日本語科目は学習がしにくいといわれています。しかしいずれの級も全国的にみた平均得点は80点前後が示されていて、科目合格率も80%を超えています。難しいといわれながらも、受験者や指導者の皆さんが、それなりに努力してよく頑張っていることを裏付けるものでもあります。

 全ての級の日本語科目に求められる要素は、@ 文章を読んでその趣旨を理解する力(文章判読力)、すなわち、問題文をよく読み、問題の趣旨を十分に理解してからでなければ答えることが難しい問題と、A 適切な文や漢字で書き表す力(表記・表現力)、つまり、適切な漢字を選択したり誤りの文章を訂正したりする問題との二つの要素で構成されています。

 @の「文章判読」は課題文が短評(コラム)で示され、その文中にある言葉の意味や助詞などの選択、「あれ」「それ」といった代名詞で示された文の選択、筆者が述べた本文の趣旨を与えられた選択肢から選ぶものなどです。いずれも本文をしっかりと読み、そこに記された文意(文章の趣旨や意味)を把握してからでなければ答えられない問題ばかりです。

 この科目で不合格になる原因の多くは、課題文を十分に読まなかったことにあると考えられます。「読む」とは、「文字の音(おん)を声に出す」という意味ですから、文章を目で追うだけでは読んだことになりません。もちろん受験時に声を出すことは禁止ですから、ここでは「唇」を動かしながら読むようにすれば、文章の意味を理解することが容易になるでしょう。日ごろ文章を読む時にこの練習をすれば、理解度は必ずや高まるはずです。

 また、周りにある新聞や書籍、書物などを読むときには、常に文意を探るつもで読み進めれば、判読力は知らず知らずのうちに身につきます。これは、友人などとの「会話」を考えてみればよく分かります。相手の話をしっかり聞こうという気持ちがあれば、その内容はよく理解できます。しかし、なおざり(いいかげん)な態度で聞いたのでは、いくら身近な話題でも理解することは難しくなるでしょう。話の主題は何か、要点(大事な部分)はどこか、結論は何か、というように相手の伝えたい内容を理解しようという心がけ(努力)が大切なのです。文章を見るだけ、話を聞き流すだけで判読力を高めることはできません。

 Aの「表記・表現」の課題は、書き表し方や用いる漢字などの表記の適切さを問うものです。漢字の読み、同音や同訓の漢字の選択、送りがなや現代仮名遣いの誤りの訂正などの問題です。これまでもビジネスでよく使われる「四字漢語」は必ず出題されています。参考書などで一読しておけば、簡単に解決できる問題でしょう。

 表記・表現力も、判読力と同じように、日ごろから関心をもって文章に触れることが大切です。最近は文章を読まない人が増えているなどといわれます。文章を読むことは頭脳の中味を整理することでもあります。つまり、文章を読まないということは、自分の「知力のもと」を退化させているに等しい行動といえるのです。表記・表現力は、さまざまな文章を読むことで向上させることができるのです。


 このようなことから、日本商工会議所の監修で日本語のテキスト『日本語文書ゼミナール』が出版されました。上述したような日本語科目の受験対策には最適です。また、ビジネス文書科目に役立つ内容も多く盛り込まれています。

 本書の出版概要は次のとおり。

書 名日本語文書ゼミナール〈もう一度日本語の勉強をしてみたいあなたへ〉
著 者ビジネス言語研究会
監 修日本商工会議所
発 行ネット教育センター株式会社
発 売株式会社紀伊国屋書店
価 格2000円+税

 また、次のような内容で構成されています。
基礎編
日本語基礎学習
表記の規則と実際
語彙(ごい)の問題
敬語の理解
文法事項の理解
読解編 読解演習問題
実務編
ビジネス文書の作り方
ビジネス文書とは
ビジネス文書作成のための基本認識
基本フォーマットとポイント
関連知識

 書店で手にとって、内容を確認してみることをお勧めします。


(2)常識科目(全級)

 IT(情報通信技術)の発達とともに、私たちが作成したり送ったりする文書処理のツール、すなわち道具も複雑化してきました。パソコンによる文書作成や電子メール(eメール)での連絡、さまざまな記憶媒体への文書ファイルなどと、幅広い基礎的知識がなければ道具を使いこなせない時代になったといえるでしょう。

 このような情勢下にあって、とりわけビジネス(業務)で文書を扱う場合には、これら基礎的なITの活用知識は必須のものとなっていて、これがなければ企業などで与えられた仕事をこなすことは不可能といっても過言ではないほどです。

 日商文書技能検定試験では、これまでも文書作成に関連する情報処理の基礎知識が出題されてきましたが、上述のようにこの範囲が広がりましたから、従来の「文章作成の知識」と「基礎的な情報知識」に加えて、これら新しいツールによる「文書取り扱いの知識」が加わったと理解しなければなりません。

 ただし、この科目も日本語科目と同じように、全国的な平均得点は70点を超え、科目合格率も低くありません。科目名にあるとおり、ビジネスにおける文書作成上の「常識」を問う内容なのですから、「仕事に生かせる知識を学ぶ」という態度で学習することが、受験対策の一つです。


(3)入力科目(全級)

 最近の顕著な傾向は、入力科目で不合格になる受験者が増加していることです。数年前に出題文字数が大幅に減少されたにもかかわらず、減少前よりも不合格者が増えたということは、「入力の能力」が確実に低下したことに他なりません。この原因は、入力能力の重要性に対する認識の欠如と、練習の不足以外に考えられません。課題は身の回りにいくらでもあるのですから、手間暇(労力と時間)を惜しまずに練習することが、入力科目合格の絶対的な条件です。

 特に、3級の不合格が目立ちます。10分間に入力する350字は、決して楽な文字数ではありません。しかも、誤字数の許容は8字ですから、簡単な練習でクリアできるほど甘くはないのです。受験者、指導者の皆さんは、入力の重要性を再度確認する必要があると思われます。

なお、速くて正確なタッチタイピング技能の上達には、昨年10月より新しく始まりましたビジネスキーボード検定試験のご活用もご検討ください。

(ビジネスキーボード検定練習用ソフト発売中。http://www.kyouikucenter.com/keyboard/index.html


(4)ビジネス文書科目

1)3級
 昨年度後期は、@FAX(ファクシミリ)の送信状と表 A発注書・申しこみ書と表 B社内旅行・修学旅行の案内書と表 の3パターンが出題されました。
 常識科目の項でも述べましたように、パソコンソフトウェアの機能が向上したことで、ビジネス分野でもこれを存分に使いこなそうと、さまざまな工夫や応用が行なわれています。行と列とを単純に並べるだけの表ではなく、列を結合させたり行を挿入したりというように、見やすく理解されやすい表作成が行なわれています。昨年度は斜線や矢印(吹き出し)が新しいポイントでした。少しずつ新しい機能が追加されていますから、過去問題だけでなくビジネスで流通している文書を参考にすることが大切です。
 文章の部分は、これまでと大きく変わることはありませんでしたが、定型文章の表記法が理解できない受験者が少なからず見受けられました。頭語と結語、時候のあいさつをはじめ、例えば、参照、案内、査収などといった文中に使われるビジネス用語は、一度ならず二度、三度と、使ってみなければすぐには思いつかないでしょう。ビジネス文書科目は、ビジネスの現場で活躍するための技能を判定するものですから、ビジネス用語を積極的に身につけるように努力することが合格への近道です。
2)2級(後期)
 昨年度後期の「事前入力データ」には、3つの表とイメージ図、3Dグラフが示されていて、試験課題は、これを加工して解答するというものでした。
 今回のポイントの1つは、「A4版用紙横1ページ」に作成せよという指示。従来は縦組み指示が多かったため、これを見過ごした受験者が多く見られました。これは失格です。2つ目は段組の指示。A4版用紙の左側に表、文章、イラストを入れ、右側には3D図を配置するというもので、レイアウト力が試されたのです。2つとも、指示文をよく読まないで解答した受験者は、大きな失敗につながったようです。
 機能の活用の課題は、表、イメージ図の加工と、3D図への縦矢印の追加でした。選択した図表の加工は、適切な大きさにする必要性があり、これを考慮せずに処理した後には大変な作業が残ることになったはずです。
 文章の課題は、表に示された語句やデータを抜き出して文章を完成させるもの。「事前入力データ」を作成する段階で表をしっかり読みこんでいれば、簡単に答えられたでしょう。「事前…」から問題を予想することも必要ですが、ここに記されている内容をしっかり吟味しておく方がより重要であることを理解すべきです。文章課題は、表や指示文の前後関係を理解しなければ答えられないように構成されているのですから。
 前回の講評で「箇条書き」の知識不足を指摘しました。昨年度後期には出題されませんできたが、次回、またはその次には必ず出題されると考えておくべきです。とりわけ、箇条書きに使われる言葉遣いはビジネスに必須です。必要事項だけをまとめて体言止めで表記するといった基本的な知識は、ぜひ習得するようにしてください。
 インターネット上などには、「事前…」をもとにした予想問題が多数アップされています。前にも述べましたが、予想が当たるとは限りませんし、外れる方が多いと考えるべきです。試験に臨んで慌てることがないように心積もりすることも大切。「これしかない…」などという対策は、「策士、策に溺れる」のたとえを実践するようなものです。
3)1級
 1級の技能に上限はありません。いわば青天井ともいえる科目ですから、どのような難題が出されても答えられる能力が求められます。「それはわかりません…」では1級に挑戦する資格はないものと認識しなければなりません。
 昨年度は、苦情(クレーム)に対する解答文書の作成と、これを解説するためのフローチャートの作成が求められました。相手の感情を害さないような文章表現を用い、また、単に詫びたり反発したりするのではなく、事実の確認や当方の主張を忘れてはなりません。二度とトラブルを起こさない対応策を説明する必要もあります。クレームの対処は、相手に納得してもらえるような冷静な処理が強く求められるのです。
 問題文にはこれらの必要事項を要約して解説してありましたが、解答の中には相手の怒りの火に油を注ぐような表現や平身低頭で詫びるだけといったものも数多く見受けられました。近年はインターネットなどの発達で、ビジネスにおける苦情処理はきわめて重要な経営課題になっています。1級を受験するレベルであれば、苦情に十分応じられるの高い文章表現技術と文書作成能力が要請されていると自覚すべきです。
 1級のビジネス文書課題として取り上げられるべきテーマには、まだ多くの種類が考えられます。例えば、企画書や提案書、解説書などです。これらの文書は、パソコンソフトの活用によってさまざまに工夫されるようになりました。多くの種類の文書に接しておくことは受験対策だけでなく、ビジネスの潮流をみるうえでもきわめて重要なことといえましょう。
 1級に求められる技能とは、文章や図表などの表現法をフルに活用した現実的なビジネス対応であり、機器機能や操作技術では決してないと理解していただきたいと思います。