経営意思決定における情報技術の活用(第1回)
−パソコンを仕事でどのように活用するか−

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1.パソコンは汎用コンピュータ
 パソコンはオフィスや家庭でごく身近なツールになりました。とくにほとんどのパソコンにはWordやExcelそして電子メールやインターネットブラウザなどのソフトがインストールされ、ノートとペン、電卓やそろばん、電話、そしてTV?(ブラウザを机上の何と対比させたらよいのでしょうか)の感覚で、「よしコンピュータを使ってやろう」といった意識もなしに、気軽に利用されています。コンピュータリテラシーとかエンドユーザーコンピューティングといった用語がこうした現在の状況をあらわしています。
しかし、コンピュータ(そしてパソコンも)がごく限られた専門家によってのみ利用された時代はそんなに昔のことではありません。その当時は、たとえば商品別や支店別の売上を分析したいと思ったときに、そのための集計や並べ替えなどのデータ処理を専門家に依頼し、数日や数週間、場合によっては一ヶ月も待たされてようやく処理結果を得ることができるといったことがむしろ当たり前だったのです。
 
 さて、昔はともかく現在のわれわれはめぐまれています。WordやExcelの基本操作を身に付ければ、とりあえず、すぐにでも身近なニーズからパソコンを使い始めることができます。しかし、じつはパソコンは汎用コンピュータです。その応用範囲は想像以上に広く、そして深いものがあります。手書きのメモをパソコンに入力し、きれいに印刷して、「さすがはワープロソフトだ」と感激している人も、イラストや表そしてインターネットのホームページなどを参照しながら数十ページにおよぶレポートを執筆している人も、同じWordを使っています。また、これまで電卓で整理していた一日の出費をいまではパソコン画面上で集計している主婦も、販売データをさまざまな角度から分析している企業のスタッフも同じExcelを使っています。
 
 本欄の読者はWordやExcelなどのソフトを日常的に使いこなしていることでしょう。しかし、あらためてそれぞれのソフトに含まれる多様なそして高度な機能について、そのあらましを知ってみることは「こんなこともできたのか、あんなこともできたのか」という新たな発見に出会うことでしょう。本欄では経営意思決定(といっても抽象的であいまいですが)という立場からさまざまなパソコンソフトそして関連した情報機器について、具体的な例をあげながら検討していきたいと思います。

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2.経営意思決定ツールであるSpreadsheet Software
 Wordはワープロソフトの代表例です。それではExcelはどうでしょうか。Excelは表計算ソフトあるいは表集計ソフトの代表例です。WordもExcelも米国製(Microsoft社)なので、英語ではどういわれているかというと、それぞれWord Processing、Spreadsheet Softwareです。Word Processingはともかく、Spreadsheet Softwareとはどういう意味でしょうか。表集計ソフトというとなんとなく、「ワークシート上の数値データをすばやく合計することが基本」と思われますが、じつはExcelは、そしてその基本的なねらいであるSpreadsheetは経営意思決定の重要なツールなのです。
 
 日ごろ、そんな意識をもたず、むしろ表集計計算のような単純な処理に使っていたみなさんにとって、急にそんなことをいわれても何のことやら、理解に苦しむかもしれません。当然です。しかし、Excelの歴史そしてSpreadsheet Softwareの開発の経過をたどってみると、そこには経営意思決定のためのツールという意識がはっきりと見て取れるのです。

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3.ダン・ブルックリンのアイディア
 Excelは1979年のVisicalcに始まるSpreadsheet Softwareの分野において現在、圧倒的なシェアを確立しているソフトです。しかし、Microsoft社がSpreadsheet Softwareの歴史のページを開いたのではありません。Visicalcは1970年代後半、当時ハーバード大学のビジネススクールで学んでいたダン・ブルックリンによってSpreadsheet Softwareのアイデアが創造され、そしてパッケージソフトとして世に出たのです。ビジネススクールは企業の専門管理者の教育を行う経営大学院であり、学生の多くは企業からの派遣やみずから企業を経営しているような人々です。最近では日本でもビジネススクールに対する関心が高まっています。ダン・ブルックリンはSoftware Arts社というごく小さなソフト会社の経営者でしたが、新たな学習意欲に燃えてビジネススクールで学んでいたのです。
 
 ビジネススクールにおいてさまざまなケーススタディが課題として課されました。将来に予想される売上や費用の状況(シナリオ)にもとづいて利益などの結果を分析することがその内容です。電卓をたたいて一つのケースを分析するのに数時間はゆうにかかります。数十通りのケースを分析していかなければならない学生にとって、寝る時間も惜しんで計算を続けなければなりません。とうとう夢の中にまであらわれたほどです。彼の夢の中では、教室の大黒板の上で教授が次々に計算する過程が見えています。黒板の左上の売上や費用の前提条件(シナリオ)の数値を、たとえば、売上10%の伸びと費用5%のアップにしたとして、それにともなって次々に結果の値を計算して新しい値で黒板の欄を埋めていきます。計算をちょっとでも間違えると、最初からやり直しです。「もし、条件を変えたときに、新しい結果が自動的に計算されて表示されていくようなコンピュータソフトがあったらすばらしいのに」と思ったのでした。その結果が電子黒板であり、パソコン画面(メモリー)上に展開された仮想的な電子の表、つまりSpreadsheetだったのです。

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4.PC販売の急増
 AppleII用に販売されたVisicalcは多くのユーザーを集め、その結果ApppleIIの販売台数が急速に伸びたといわれます。ついで、1981年秋に発売されたIBM PC用に新たなSpreadsheet Softwareである1-2-3(Lotus社)が発売されると、今度はそれによってIBM PCの販売が急速に伸びました。1984年ころ、私はロスアンゼルスの南カリフォルニア大学ビジネススクールに滞在していましたが、大学に大量にIBM PCが導入され、その上多くの学生が1-2-3を学んでいたことを思い出します。

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5.Spreadsheet Softwareの歴史
  このようにExcelは本来は専門経営者、専門管理者の経営意思決定のツールであるのです。その基本は条件(シナリオ)が変わったときに利益などの結果がどうなるのか、それを分析することです。これはまたwhat if分析とかシミュレーション分析ともよばれます。ExcelそしてSpreadsheet Softwareの歴史(Visicalcの歴史)をたどることによって、表計算ソフトの本来のねらいが理解でき、それにもとづいてこれまでにためしてみたことのないExcelの機能への関心を高めることができると思います。
 
 http://www.yahoo.comにアクセスし、visicalcをキーワードとして検索してみると、そこにはダン・ブルックリンや彼と一緒に開発にたずさわったボブ・フランクストンのホームページもあります。また当時のVisicalcを現在のパソコンで動かしてみるエミュレータもダウロードできるし、さらに、Spreadsheet Softwareのアイデアを特許として申請しなかったいきさつなども興味深く紹介されています(Excelの販売本数から考えて、もし特許をとっていれば大変な特許収入を得ることができたはずです)。みなさんもぜひ、アクセスしてみてください。なお、この表計算ソフトの歴史はエピソードはNHKスペシャル「新・電子立国:世界を変えた実用ソフト」において紹介されました。私も当時の番組をビデオに録画し、いまでも学生に見せては「表計算ソフトは単なる集計計算のツールではないんだよ。君たちが学ぶ経営の効果的な分析ツールなんだよ」といったように、表計算ソフトの重要性を認識させるようにしています。いつのまにか、表計算ソフトという呼び方を連発していますが、用語はともかく、ときにはそれぞれのソフトにこめられたねらいに思いを馳せたいものです。  

[麗澤大学国際経済学部教授]
高橋三雄
参考文献: 相田 洋著
NHKスペシャル新・電子立国3世界を変えた実用ソフト
NHK出版、1996年
2002.06.17掲載

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