企業実務で役立つIT利活用能力が不可欠

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奥が深いわかりやすい資料づくりにはパソコンスキルが必要

-スマートフォンが普及する一方で若者のパソコンスキルが低下しているとの報道を目にしますがいかがでしょうか。

残念ですが、日本の若者のパソコン離れはかなり進んでいると言えます。私たちが5年ごとに実施している調査では、起動が早く、移動時間にすぐ使えるスマートフォンを活用している人が10代、20代で各々8割以上を占めており、自分専用のパソコンを持っている人はとても少ない状況です。利用の仕方はメールとSNS(LINEやTwitter等)が中心ということもあり、起動が遅くて持ち運びに不便なパソコンよりも、タブレットやスマートフォンが爆発的に普及したのだと思います。タブレットやスマートフォンに慣れてしまうとパソコンが使いづらくなってしまい、ついにはメールやSNS以外の活用という点でもパソコンを使わなくなり、必然的にそのスキルも低下したのでしょう。

中学校や高校で、操作性やコスト面等の理由のため、タブレットをメインで使用していることも挙げられます。タブレットでタッチタイピングができたとしてもパソコン用のキーボードとは別物です。私が非常勤で教えている大学では、レポートをスマートフォンで書いて提出する学生もいますが、ボリュームが少ないうえ内容も深みがないですね。文書作成、図表作成のどれをとってもパソコンより効率が悪いからでしょう。やはり、情報の収集・編集、図表を多用したわかりやすい資料づくりなどをマルチタスクで行うには、スマートフォンやタブレットよりもパソコンと言えるでしょう。

企業ではパソコンが使えないと仕事が進まない

-企業現場で求められるパソコンスキル、つまり学生が在学中に習得すべきパソコンスキルとは具体的にどのようなものなのでしょうか。

大きく3つあります。まず、図表を効率的に使ったわかりやすい資料を作成するスキルです。Excelを使って計算する、表やグラフを使って作図する、PowerPointを使って見やすくするなど、簡潔で説得力のある資料を作る能力です。
二つ目は、インターネット上のメディアリテラシー、つまり、インターネットで信頼性のある情報を的確に検索し、かつ編集する能力です。
三つ目は、Word等のワープロソフトを使って論理的かつ的確な文章を書く能力です。

企業では、データ分析や報告書作成など、これだけスマートフォンが普及してもパソコンが使えないと仕事になりません。パソコンが使えないと、情報収集力やITリテラシーが劣ると上司から判断され、パソコンを駆使する仕事は割り当てられないようになり、いずれ若者の間に新たなデジタルデバイドが生じてくるかもしれません。
こうしたスキルは、入社する前、つまり学生の間に身につけることにより、スタートラインで他の同期よりも一歩リードしていることを上司にアピールできると思います。

スマートフォンやタブレットではなくパソコンを使ったITリテラシー教育が必要

-これからの情報教育はどうあるべきと考えますか。

さきほどお話しましたが、企業現場ではパソコンを使えないと仕事が進まないにもかかわらず、中学校や高校ではタブレットを活用した教育中心になっているので、このギャップをhashi-mid1埋める必要があると思います。そのためには、学校現場でもパソコンを使い、時間をかけてタッチタイピング、Word、Excelなどを教える必要があると思います。

今はまだパソコンスキルは持っていて当たり前のスキルですが、このままでは近い将来、十分なパソコンスキルを持っていない学生が社会に出ていくことになります。ビジネス実務で役立つパソコンスキルを持っていることを証明できる検定試験も、今後重要な役割を担うことになると思います。
また、非常勤で教えている大学の学生を見ていると、パソコンをあまり使わず、もっぱらスマートフォンばかり使っている学生は、新聞をほとんど読んでおらず、政治や経済に関するニュースへの関心が低い傾向があります。若い人たちが芸能やスポーツ等の娯楽的情報に没頭しないよう、学校や親の適切な指導が必要だと思います。

最後は自らの頭で考える

-これから社会で活躍される若いみなさんにメッセージをお願いします。

ITを効率的に利用できるようになると、たくさんのメリットがあります。異世代・異空間の人たちとのネットワーク規模が拡大することにより、知識が豊富になり、学習や仕事の生産性向上にも貢献していくと思います。
一方、現実世界でのコミュニケーションの減少や健康面のデメリットもあるので、バランスのとれた使い方が重要です。

「グーグル効果」という言葉がありますが、インターネットの普及により、人は検索して得た情報を記憶しようという衝動が弱くなってきていると言われており、インターネットで容易に収集した情報は頭(脳)に残りません。本来、知識の収集・構築は、それなりの手間暇をかけて行う作業であることを念頭に置く必要があります。
また、インターネットは「解がある問いに対する答え」を調べるのには有効ですが、「決められた正解がない問いに対する答え」を調べるのには向いていません。インターネットへの過度の依存は「解のない問い」に対するチャレンジ意欲を削ぐ恐れがあります。世の中には「解のない問い」の方が多いので、ITに頼りすぎず、最後は自らの頭で考えることを習慣づけるとよいと思います。

Profile

hashi-prof橋元 良明 Hashimoto Yoshiaki
1955年京都府生まれ。東京大学文学部心理学専攻卒業。同大大学院社会学研究科修士課程修了。現在、東京大学大学院情報学環教授。情報行動に関する社会心理学を専門とし、最近では、携帯電話やインターネットの活用が日常生活や、特に青少年の心理に及ぼす影響に関する調査研究を手掛ける。