出題の意図<1級>

[商業簿記]

 本問は、連結財務諸表に関する総合問題であり、比較的オーソドックスな出題となっています。「連結」を勉強した方にとっては、それほど難解な問題ではないと思われます。山を張らずに、総合的に学習しておくことが肝要です。出題のポイントは、以下の諸点となります。
1 「連結」における税効果会計
 全体を通して、税効果会計を適用しなければなりません。税効果を考慮しなければならないものと、考慮しなくて良いものとの区別が必要となります。
2 持分法の適用
 A社株式について持分法を適用することが要求されています。しかも、P社は、A社から備品の購入、配当金の受け取りがあります。アップストリームの場合の持分法による処理に関しての理解度を問うています。
3 全面時価評価法による一括法
 今回の問題は、全面時価評価法の採用を要請し、一括法による投資勘定と純資産勘定の相殺消去を問うています。第113回1級の問題と比較して、その違いを確認しておくと良いでしょう。
4 未実現利益の控除
 商品と土地の販売によって生じた未実現利益の控除は、商品がダウンストリーム、土地がアップストリームであることに注意する必要があります。


[会計学]

 第1問は、文章の中に適切な語句を入れる設問です。いずれも会計学において基本的な事柄であり、着実な学習が求められる内容です。
(1)企業会計原則の意義・役割について、企業会計原則前文の文章です。
(2)為替相場の変動は、企業の業績に大きな影響を及ぼすものであり、為替差損益は損益計算書上、どの区分に計上されるかを問うものです。「外貨建取引等会計処理に関する実務指針」参照。
(3)「継続企業の前提」に関する注記についての記述です。「財務諸表等規則第8条の27」参照。
(4)税効果会計における繰延税金資産の「回収可能性」についての記述です。「税効果会計に係る会計基準」参照。この設問は、若干、正答率の低い問題でした。
(5)現行の会計基準では長期請負工事の収益計上は、工事完成基準と工事進行基準との選択適用が認められています。「企業会計原則注解7」参照。ただ、近い将来、実施される予定の新「工事契約に関する会計基準」では、どちらの基準を用いて会計処理すべきかに関する識別基準が明示されています。
 第2問は、吸収合併による企業結合のさいの会計処理に関する設問です。最近、企業戦略の重要な柱のひとつとして「企業のM&A戦略」が注目されています。日常の新聞やテレビにおいて、活発なM&Aの動きが盛んに報道されていますが、企業のM&Aが、どのように会計処理されるかを認識しておくことは大切です。今回の問題は、株式交換による吸収合併であり、そのさいに新株式を発行するとともに、保有してある自己株式も活用した合併である点に留意する必要があります。
 この合併は、「取得」と判定される吸収合併であり、いわゆる「パーチェス法」が適用され、被取得企業の資産・負債は時価で評価しなければなりません。したがって、株式交換価額と取得純資産(時価ベース)との差額は、「のれん」または「負ののれん」として認識されます。また、自己株式処分差益は、通常の売却の時には、貸借対照表上、「その他資本剰余金」に計上されます。しかし、このケースのように、吸収合併の全部または一部が、吸収合併存続会社の株式である場合には、吸収合併後の株主資本の配分は、合併契約時の特別決議により決定することができます。この設問では、「株式資本のうち1/2を資本金に配分し、残額を資本準備金とする」と決議しています。自己株式処分差益もその配分の対象になります。
 第3問は、資産の流動化(証券化)の設問です。企業は、保有資産の質的な見直しを行い、その効率的運用・活用を積極的に展開するようになってきています。特別目的会社(SPC)を設立し、資産の流動化(証券化)をはかる企業も多いです。この資産証券化戦略が、新たな会計処理問題を発生させています。企業の取引や行動に変化が生じることにより、会計への影響、会計側の対応を考慮することが大切です。会計は、それだけで独立して存在するものではありません。常に企業の変化・動向と密接に結びついています。「会計」と「経営」をつなげて「会計の問題」を考え、学んでいく姿勢が重要なのです。日商1級にチャレンジする受験者は、現実の生きた経営・経済の動きに、いつも注目をしながら、会計学の学習をしてほしいと思います。
 資産流動化(証券化)の設問は、「日商1級会計学」では、初めての出題です。そのままで出題した場合には、かなり正解率が低くなることを予想しました。そこで、問題文のなかに、解答にあたっての若干のヒントを与え、会計処理における勘定科目も、列挙・掲示しておきました。
 「流動化した不動産の譲渡時の適正な価額(時価)に対する負担の金額の割合が、5%程度の範囲内であれば、リスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人であるSPCを通じて他の者に移転していると認めて、譲渡人は売却取引として会計処理を行い、そうとは認められない場合、譲渡人は金融取引として会計処理を行う。」
 C社の負担分:(優先出資証券分)5/(譲渡時の不動産の時価)100=5%
 D社の負担分:(優先出資証券分)30/(譲渡時の不動産の時価)100=30%
 それゆえ、C社の場合は、SPCに対する「売却取引」として会計処理することが認められます。これに対して、D社の場合は、保有していた不動産をSPCに売却・移転することは認められません。「売却取引」ではなく、単なる「金融取引」としてしか認められないことになります。受け取った現金預金は、「借入金」扱いとなり、優先出資証券購入分は、「借入金」の返済として処理します。


[工業簿記]

 本問は直接標準原価計算からの出題であり、直接標準原価計算のもとでの差異分析に加え、社内金利と販売手数料の理解を問うています。
 原料は購入単価で受入記帳を行うため、標準変動費差異の原料費の差異分析ではすべて標準単価を用いることに注意してください。
 化学品、ゴム、紡績などの業界では、製品を製造するために複数の原料を配合し、それを加工します。あらかじめ技術的に各種原料の標準配合割合を算定しますが、実際には配合割合が異なることがあります。そこで、原料費差異分析により、標準購入単価と実際歩留のもとで標準配合と実際配合に起因する差異である原料配合差異と、標準購入単価と標準配合のもとで標準歩留と実際歩留に起因する差異である原料歩留差異とに分析します。直接労務費と変動製造間接費の差異分析においても、同様の考え方によって分析します。
 問3の月次実際損益計算書の作成においては棚卸資産金利、設備金利、販売手数料についての誤答が多くみられました。したがって残余利益の正解率は低かったです。
 各種資産に対して金利を課す日本企業は少なくありません。資本コスト控除後の利益を残余利益と呼びます。実務において残余利益という用語そのものは定着していませんが、社内金利控除後の利益は残余利益といえます。問題文では資本コスト率(金利)が年率で示されていますが、求められているのは月次損益計算ですから年率を月次の利率にします。
 受注生産を行う企業では販売手数料制を採用する例が多くみられます。本問では標準貢献利益の20%を販売手数料としていますが、売上高を基準に販売手数料を支払う場合もあります。なぜ販売手数料を求める基準が異なるのかについて考えてみるとよいでしょう。


[原価計算]

 第1問は、利益計画・価格決定のための原価計算、第2問は、ABC(活動基準原価計算)に関する問題です。出題区分表でいえば、第1問は「第13 原価・営業量・利益関係の分析」および「第15 直接原価計算」、また、第2問は「第20 戦略策定と遂行のための原価計算」からの出題となります。
 第1問では、変動費と固定費の分類を重視し、貢献利益に基づく計画・意思決定を行う貢献利益アプローチ(貢献利益的接近方法)に関する知識と計算技術が求められます。問題文の中で変動費と固定費に関する情報が提示され、各問において貢献利益および貢献利益アプローチの用語が用いられていることに注意してください。
 第1問の問1は、初歩的な問題であり、1級受験者にはサービス問題でしょう。問1で、製品1個当たり貢献利益とは別に、1時間当たり貢献利益の計算を求めていますが、それは問2以下の解答のためのヒントになっています。1時間当たり貢献利益(稀少資源単位当たり貢献利益)は大変重要な概念です。これができなかった受験者は大いに反省する必要があります。第1問で多くの受験者が間違ったのは、問2の「部品Yのみを製造・販売する場合」の営業利益の計算でした。また、無回答も含め、もっとも出来なかったのは問3でした。
 第2問はABCの問題です。ABCは1級受験者にとっては基本中の基本の問題であることに鑑みると、出来は良くありませんでした。
 今回もしっかりと勉強していれば満点をとりやすい問題でしたが、意外なほどに満点は少なかったと思います。受験生の皆さんには繰り返し勉強しているテーマだと思われますが、満点が少なかったということは、馴染みのある問題だけにパターン化した学習に陥っていたのではないでしょうか。初心に帰ってもう1度基礎を復習していただきたいと思います。